sea
blue
2
港へと歩き始めた二人に近づく男達の影は 先程の残党だろうか。
かかって来る男達に ゾロは自由の利く右手で応戦している。動きが鈍く見えるのは毒の所為かもしれない。
鎖鎌を操る男を相手にしながら 斜め後ろのゾロを見たサンジは息を呑んだ。
ゾロに死角となった所から 男が飛び出すのが見えたのだ。
背中に向かって振り上げられた剣にゾロは気付いてない。
普段のゾロなら、その間合いに入る事さえも出来無い様なちんけな敵だ。
きっとゾロは、毒で朦朧とした意識の中で闘っているんだろう。サンジは 剣を持った男に踵を落とした。
崩れ落ちる男の向こうで ゾロの背中は綺麗なままだ。
それを目の端に入れホッとしたとたん 脳天を突き抜けるような痛みが背中に走り 振り向くと先程の鎖鎌を持った男が血の滴る鎌を手にして笑っていた。
次に鎖が伸びたと思った直後、とっさに跳んでかわしたつもりが、左腕から脳に向かって激痛が走った。
結構深く切れたのかもしれない。
脚に力を込めてぐらつく身体を 踏み留めると跳躍した。
飛び道具を持つ敵の間合いに飛び込み 蹴りを食らわす。
残った数人が逃げたのを見て サンジはすっかり色の変わったシャツを隠すようにジャケットを羽織った。
どくどくと傷口から血が流れる感覚に 背筋が寒くなる。
横に居る生気の無い目をしたゾロは 立っているのがやっとのようだ。
どんな時にも 敵の前では強い眼差しを絶やさない筈のコイツが・・・。
いつもとは違う男の様子に 少しだけ不安が過ぎた。
一時も早くチョッパーに見せなければ・・・。
サンジはゾロを肩に抱えると船を目指した。
視界が霞む。
毒がまわったのだろうか。
華奢な身体は見た目より筋肉が付いているが 俺を支えて歩くのはキツイんだろう。
ハァハァと息が上がり身体が不自然に揺れるのが 触れた左側から伝わる。
さっき撃たれた傷もあるしな。
俺が自分の足で歩けりゃいいんだが どうにも重くて動かせねぇ。
いらねぇ傷を増やしちまったからな。
強くも無い敵に 腕と腹に剣を許した自分に自嘲気味に笑った。
「何だ?・・三途の川でも・・・お花畑でも見えたか?とうとう毒が頭に来ちまったか。・・・ゾロ。」
コックが紫煙の香りを漂わせ俺を抱えなおす。
「・・・いや。・・・まだ見えねぇよ。」
重い口を開くと 笑って噎せたサンジが地面にタバコごと唾を吐く。
刹那、掴まれた左手が震えたように思えた。
震えたのは 俺の腕かサンジの腕か・・・。
自分の身体がいう事を聞かないのが もどかしい。
二人分を支え バランスを崩したサンジが膝を付いた拍子に 俺も前にのめる。
右に寄せた三本の刀がガシャガシャと鳴る。
「ゾロ・・・・・・・・・ワリィ。・・・・足取られた。」
霞む視界では判らないが 薄暗い木の根などが出ている所を歩いているようだ。
港から市場に向かう途中に雑木林はあったはずだ。では 船まで半分は来たという事か。
左のサンジが しきりに噎せて揺れる。
呼吸を整えると 俺の手を掴む。
ヌルっと滑る感触に 血を想像した。
「クソコック、・・・血ィ出てんじゃねぇか。・・・降ろせよ。」
「はっ。何言ってやがる。俺ァ怪我なんてしてねぇよ・・・。このサンジ様が、親切に船まで案内してやるってんだ、・・・遠慮すんな。」
コックに怪我はないという、じゃぁ俺の腕が怪我してんのかと気になり、サンジに聞くと
「・・テメェの腕は ・・無事だ。安心しろ。・・・こりゃ・・汗だよ。・・・ゾロ。俺の汗だ。」
「そうか・・・・・・・・・・・・。」
「・・・三刀流が ・・三本持てなかったら・・・困んだろ。大した事ねぇよ。こんなの掠り傷だ。マリモの表面掠っただけだ。丸いのが・・・ちょっとばかし角ばったってくれぇだな。
・・・こんな時だけどよ、なぁゾロ テメェとオールブルー見れて・・・俺は良かったと思ってんだ。そんで・・・今の・・・俺の夢はよぉ、・・・三刀流が 世界一になるのを見ることなんだぜ。・・・ゾロ。テメェは大剣豪になるんだろ。魔獣がこんなことくれぇで弱気になったんじゃかっこつかねぇぜ?」
オールブルーを見つけて以来 初めて告げられるサンジの夢。
俺の夢が お前の夢だと言うのか。
・・・同じ夢を見るのか。
こんな時なのに幸せだ 俺は。
今すぐにでも抱きしめたい衝動に駆られるが 重い身体は ただ抱えられるだけで・・・
「・・・・・言われなくてもなる。」
「あぁ。ゾロ。」
「そん時ゃ、お前も一緒だ・・・・クソコック・・。」
「・・しゃぁねぇゾロだな。・・立ち会ってやるよ。」
「当たり前だ・・・・・」
「ゾロ。ちゃんと見ててやるよ。・・・・・・・・・どんなに遠くからでも・・・。」
「・・・・・。」
「・・・・頼むぜ・・・ゾロ。」
サンジ、今日のお前は やけに俺の名前を呼ぶんだな。
「・・・よぉ。ちょっと・・・待っててくれるか。」
「あぁ、・・・行って来い。」
サンジが太い木の洞に俺の身体を預けて言うのを 素直に聞いた。
足手纏いになるであろう俺は 不本意だが戦えない。
曇った視界には敵は見えない。感じる気配は 二つだけ。
弱った俺達を見て 隠れるように付いてきた気配が殺気に変わったのを 肌で感じた。
サンジが木から離れていく。耳で彼を追った。
足音が乱れるのは でこぼこの地面の所為か。
しきりに噎せた後 サンジは唾を吐くと殺気に向かって跳躍した。
・・・・あぁ、身体が重い。
こんな重いのを支えてくれて ありがとよ。
でもよぉ・・・今回ばかりはヤバイかもしんねぇ。 そんな気がする。
こんなトコでくたばるつもりなんてさらさらねぇけどよ。
大剣豪の夢は叶えられないかもしれねぇな。
すまねぇ。折角教えてくれた、新しいお前の夢は果たせねぇかもしんねぇ。
でも一緒に オールブルー お前の夢は見ることが出来た。
それで充分かもしれねぇ。
死ぬんなら毒で死ぬより、・・・お前の上で・・・腹上死ってのがよかったな。
サンジ、・・・お前は顔を真っ赤にして怒るだろうが・・。
・・・これは ホントの気持ち。
お前と・・繋がったままなら・・・いつ死んでも構わないと思ってた。
・・・しょうがねぇ。 身体は無理みたいだが ・・心は繋がってるから・・・良しとするか。
不思議と夢を果たせない事は気にならなかった。
霞んだ視界に浮かぶのは 笑ってるサンジ。
どれ位の時間が経ったんだろう。
数十分か 数分だったのか 判らない。
冷たい水が顎を流れ 意識が浮上する。
柔らかい唇が触れ 俺の唇をこじ開けると水を流し込んできた。
少しぬるくて 鉄の味がする。
飲み込めなかったものが
顎を伝う。
霞んだ視界にぼんやりと金色が映った。
持ち上げようとする手は重くて サンジの頬に届かない。
不意に 重力に逆らうように 手がゆっくりと持ち上げられると
柔らかい頬に触れた。
冷たい頬。
冷たい陶器のような肌に一筋暖かいモノが流れている。
涸れる事無く流れ続けている。・・・涙?
泣くな。サンジ。
泣いたお前も可愛くていいんだが、
今は涙を拭いてやることさえ出来やしない。
サンジ、
・・・天使のように笑ったお前の笑顔が好きだ。
サンジの指が俺の唇をなぞる。
冷たく震えた指。
その手が離れたと思ったら 唇が落ちてきた。
そういやお前は キスが好きだよな。
誰も見てない所で ちゅっと軽く触れ合うようなキスをするのが好きだった。
唇が離れると 嬉しそうに はにかむ様に笑うんだよな。
そんな顔を見ると 胸がきゅっと掴まれる様に愛しさが込上げるんだ。
二人の気持ちが通って キスを数え切れないほどしたが
年月を経た今でもその仕草に俺は胸を締め付けられるんだ。
心底お前に惚れてるんだと思う。
「サンジ・・・。先に船に行っててくれ。」
俺は もう・・・立てない。
立てない剣士は 死に値する。
お前も撃たれて怪我している筈だ。
ジャケットの下にある 血の滲む空色のシャツが目に浮かぶ。
急所は外れていた筈だ お前なら助かる。
「・・・・・ゾロ。」
「・・・俺は・・大丈夫だから。・・・落ち・・着いたら・・後から・・行く。」
俺と一緒だと間に合わないかもしれない。
サンジ。
お前は生きろ・・・。
「・・・そっか。・・・じゃ、先に行ってるから・・・お前はゆっくり・・・来いよ。」
掠れた声でそう言うと サンジは俺を抱きしめ 唇を寄せた。
「・・・了解。」
「ゾロ、・・・・・・愛してる・・・ぜ。」
何度か立とうとして失敗した。体が重てぇ。
遠くなる足音に 俺はどこか安堵して力を抜いた。
サンジ・・・俺も愛してる。
閉じた瞼に 笑うサンジがいる。
こんなに 笑顔の似合う人間を俺は知らない。
どうか、俺の所為で彼から笑顔が無くなりません様。
どうか 彼が永遠の眠りに付く、・・・再びめぐり合えるであろう・・・その日まで 笑顔でいられますように。
先に逝って待ってるから、お前は生きて・・・くれ。
瞼の中のサンジは 綺麗に笑った。
あわわわっっっ!!ゾロはこんなんで 生を諦めるとは思えないんですが・・・、ごめんなさい