sea blue






       オールブルーは


        伝説の海は



 波乱に満ちた航海の果てに見つけたそこは 

 全ての青が入混じる海だった





 波間にゆれ 光の降り注ぐ海水に身を躍らせ
 ゆらゆらと穏やかな波が揺れるのに任せて 青を見やる
 遠い昔、何処かで感じた 懐かしい様な 暖かい様な心地よい海に包まれ・・・
 初めて来たのに 自分の場所に戻ったかの様
 揺らめく光の幕の中を 泳ぐ色とりどりの魚
    あらゆる海の魚達が泳ぐ海



        全ての青





    空さえも 海と同化しているかの様な青













「なかなか上がって来ねぇから、海に溶けちまったかと思ったぜ。」
「何言ってやがる。物心付いた時には 海の上で暮らしてたんだ 泳ぎなら任せろ。」
 ジヤケットを脱いで海に飛び込んだ俺を待っていたかのように 心配顔の狙撃主がタオルを投げてよこした。
「波に浮かんで揺れてんのを上から見てたら お前まで海になっちまうんじゃないかと思った。」
 そう言って 真顔で俺を凝視した狙撃手に 唇を持ち上げて笑ってやると
「心配して損した・・・・でもよかったな。」
 彼は穏やかに笑って クルーのいるであろう声のするラウンジに戻っていった。
 濡れて肌に張り付くシャツを脱ぎながら、シャワーを浴びる為に足を踏み出すと マストに背を預けてこっちを見ている剣士の視線とぶつかった。

















 俺はその青を見た時、呆気に取られて声も出せず、動くこともままならなかった。


 クルーのみんなが喜び騒いで そんな俺の背中を叩いたりする中 コイツだけは・・・ゾロだけは輪から外れて静かに海を見ていた。
 嵐を抜けた後に突然現れた その、どこまでも青い海に惹きつけられるように 食い入るように。
 ───見ていた。











 髪からたれた雫が掛からないように そっと触れるだけのキスをする。

 顔を離すと どこか不安そうな翡翠色の瞳が俺を見つめていた。
 その中に笑った俺が映っている。
「やっぱ、テメェの眼はオールブルーだな。」
「あ?何言ってんだ?寝言は寝て言え。」
「そん中にこの海と同じ色んな青がある。」
 そう言って 濡れた髪に手を入れ俺の頭を引き寄せると ゾロは優しい顔で瞼にキスをくれた。
 その瞳に、不安な色はもうどこにも無く 穏やかな眼差しをサンジに向ける。
 やがて降りてきた唇に絡めた舌は ちょっぴりしょっぱかった。


















 オールブルーの青にはゾロの瞳と同じ翡翠色もあったんだよな


      何故想い出したのか・・



  この状況で想い出すような事ではないのに・・














 オールブルーを見つけた俺は 船を降りる事も無く その後も仲間たちと航海を続けた。
 若い海賊王の船に乗るナミさんの海図はまだ全てではなかったし ゾロの野望も まだ果たされていなかった。
 優秀な船医と 勇敢な狙撃手は 俺と共に皆の夢を夢見た。
 中でも剣士の夢は オールブルーに替わって俺の心を占めている。
 彼の野望を俺はこの目で見届けたかった。
 例え見る事は叶わなくても それを分かち合いたかった、
 近くにいて その喜びを共に感じたかったんだ。
 ベストな状態で戦いに望ませるのに 自分が食の立場で支えたかったから。
 出会った頃より幾分大人びた 大剣豪を目指す彼の側に居たかったから・・・。

























        鉄の味がする。








 右肩に掛かるゾロの重みが増したような気がした。
 自分より重い身体の腰に手を回し、引き上げる。
 奴はいつも軽々と俺の腰に手を回し持ち上げるのに この頑丈な腰を支えるには俺の腕では心もとない。
 クソッ。こんな時にまで奴との体格の差を思い知らされるとは。
 身長はほぼ変わらないクセに(あくまでもほぼだ。ほぼ!)がっしりと筋肉質な男らしい身体。もちろん俺だって筋肉はしっかり付いてるんだが・・・。元々の骨格自体が違うんだろう。
 男として羨望した身体、安定した身体を 俺は今抱えて歩いている。





 なぁ、前に テメェは心ばかりか身体さえ 俺のものだと言ったじゃねぇか。
 俺のモノならその身体に勝手に傷つけンな。
 筋肉は重いんだよ、筋肉だるま。支えるこっちの身に成りやがれ。
「クソッ・・。」
 首に回された奴の腕が外れそうになって、思わず舌打ちが漏れた。
「おい、ゾロ。・・クソ剣士・・・テメェでしっかり掴まれよ。」
「・・・クソコック。・・・放せ。」
 左手で腕を掴むとヌルリと滑る。
 スラックスで手を擦り血を拭うと腕を掴みなおした。
「筋肉バカは自分で掴まりやがれ。重いんだよ」
 畜生、左腕の感覚が無くなってきやがった。
「・・・重いんなら棄ててけ。」
「はっ、こんなん棄てられたらこの島に迷惑かけちまうだろ。俺様が肩貸してやるってんだから・・・ありがたく掴まりやがれ。」
 くっ・・・グハッ、喋りながらも喉の奥から塊が出る。
 堪らなくなってゾロから見えないように吐き棄てると ドロドロとした血塊だった。
 鉄の匂いに噎せていると 心配そうな声が右から聞こえる。
 肩が 背中が 腕が だんだんと感覚を無くしていく。
「・・・俺を置いてけ。・・俺は  平気だ。」
「クソゾロ・・・だから、こんな物騒なモン ・・島のレディにゃ見せらんねぇんだよ。・・・でけぇマリモ見て・・・卒倒しちまうとイケねぇからな。大人しくしてろ。」
 気を抜くと途切れそうな言葉を繋げ 平静を装った。











 海軍の駐留しない 監視の目から逃れたこの島は 海賊や山賊が幅を利かせていて、お世辞にも 治安はいいといえなかった。
 減った食料や備品を市場で買い付け 配送を頼み、二人歩いていた。
 そこで 数年前より賞金額のぐんと上がったゾロに目をつけた奴らが集団で二人を襲ったのだ。
 市場を抜けた広場に差し掛かると 幾人もの男たちが二人を取り囲む。


「なぁ、これだけの人数で割ったら、分け前は一人いくらだよ?」
「んな事知るかよ。」
「はぁ〜、どうせなら こんなむさいヤローじゃなくて、きれーなレディー達に囲まれたかったぜ。」
「そうか?それはお前だけだろ。エロコック。」
 煙と共に溜め息をつくサンジに向かって ゾロは敵の血飛沫を頬に張り付けながらにやりと笑った。
 軽く100人は倒しただろうか、男たちは半数以下になり 軽口を叩きながらも、繰り出される剣と脚技に 恐怖に逃げ出す者もいた。
 恐怖に顔を顰めた男が銃の引き金を引く
 弾道を見切って剣が舞い弾を切り裂く。
 痩身が跳躍して避ける。



 足掻く男たちが山積みになった頃 突然、子供が広場に舞い込んできた。
 猫を追って来たらしい幼い子供は 広場の惨状に気付くと足を震わせ立ち止まってしまった。とうに猫は建物の陰に逃げたというのに。
 数発の乾いた銃声が聞こえた方で 痩身が子供を抱きかかえて地面に転がる。
 転がる空色のシャツの背中に血が滲むのが見えた。
 建物の影に子供を逃がし 立ち上がった痩身を見て ゾロは安堵の息を漏らす。
 そこに気を取られた一瞬の隙を突いて、男たちがゾロ目掛け一斉に飛び掛ってきた。
 沢山の剣や武器をかわす中 ゾロは肩にちくりと何かを感じた。
 構わず男たちを薙倒し 肩を見ると吹き矢が刺さっていた。
 抜き取ると傷口が熱を持った様にドクン ドクンと疼く、この感覚は・・・毒。
 しくじった、毒が仕込まれているかもしれねぇ。  
 ゾロの肩口から すとんと力が抜ける。
 気を振り絞り 残った男たちをやっつけると 痩身も振り上げた脚を降ろすところだった。
 ジャケットを拾い上げ、付いた埃をはたく痩身は 俺は大丈夫だ。と不敵に笑い。
 ゾロを見ると顔を顰めて 赤く腫れた傷口に唇を寄せ吸った。
「やめろ」
「遠慮すんな、俺ァ虫歯もねぇし、口ン中に傷もねぇ。平気だクソ剣士。」
 何度も何度も繰り返し 吐き出す唾に血が混じる。

 早く船に・・・ チョッパーに・・・・




next      novels top