背中と後頭部に回された腕はとても温かい。


視界を塞ぐ緑が愛しかった。
背中に廻された腕が心地よかった。
頭を押さえる大きな手が温かかった
声を遮る唇が熱かった。

心地よい体温に流されてしまいそうだった。



このまま流されてしまいたかった。






離れたくないと騒ぐ気持ちを押さえて ゾロの胸板に手を付いて押し戻す。
流されちゃいけねぇ。又繰り返してぇのか俺は。
「ゾロ、もうやめようぜ こんな事はよ。俺ァやっぱ抱き合うんなら柔らかいレディがいいし、男とやるのにはやっぱ無理がある、 ってか飽きたんだよ。」
「俺はてめぇがいい。」
「わかんねぇかなァ。テメェとなんかやりたくねぇってんだよ。男なんてクソ気持ち悪ィ。テメェだって男なんかよりレディ相手の方がぐっとやる気になるだろ。」
「‥‥‥‥。」
「俺はレディがいいんだよ。金輪際男となんか寝ねぇ。」
自分の鼻の穴が膨らんでるのがわかる位俺はフンと言い切った。間近にあるゾロの顔が少しゆがんだ。
「ナミになんかてめぇは扱い切れねぇ。 こんな馬鹿の面倒みれんのは俺くらいだ。 てめぇはナミの事は諦めろ。」
「はぁ?ナミさん?」
思ってもいない名前が出て気の抜けた声が出る。

「てめぇ、ナミの事が好きなんだろ?あいつはダメだ。 あいつは‥‥‥‥金の事しか頭にねぇからな。」
「は? お前馬鹿? やっぱりマリモは水中にいねぇとだめなんだな。  いやマリモ以前の問題か、単細胞植物は光合成でもしてろ。そうすりゃクロレラって言う有効な単細胞植物になって人様のお役に立てるかも知れねぇぞ。クロレラってのはなぁ、眼に見えねぇ位小ちゃな単細胞植物でよ。 そん中に生命維持に必要な器官が揃ってるんだとよ、んで光合成をして生きてるんだよ、 更にクロレラってのは 並外れた生命力で、太古からシンプルに生きのびてきたってのもテメェに似てるじゃねぇか。  ま、テメェは有害植物にしか成れなそうだもんな、人類に貢献するなんてお前にゃ無理か。  ‥‥‥‥ナミさんが好きなのは俺じゃねぇよ、残念だがな。 クソクロレラ。」
はぁ、久しぶりに長く喋ったと思ったのがこんな会話かよ 俺って情けねぇ、しっかし何でコイツはナミさんのことを持ち出すんだ?
「クロレラじゃねぇ!」
いきなり極悪な顔がアップになったと思ったら唇を塞がれた。
熱い唇が俺の口を食む。
後頭部を鷲掴みにされ仰け反らされ 髪を引かれた痛みに口を開くと そこに熱い舌が進入してきた。
口内を蹂躙する舌に血が熱くなり、息があがる。。
以前寝たことはあったが所詮処理の為だからと 初めての時しかこんなキスはしたことが無かった。
勘違いしちまいそうな激しいキス。こんなキスは好き合ってる者同士のするもんだ。
サンジはゾロの舌に歯を立てると 離れていったゾロの顔を潤んだ眼でギリリと睨んだ。
「何しやがる!」
「接吻だ、せっぷん! く、ク?‥‥‥‥クラレロ、クラレロ言いやがって、そんなもんどうだっていいんだよ! とにかくナミが好きなのはてめぇじゃねぇんだ!判ったら諦めろクソコック。」

はい〜?何で俺がナミさん諦めるんだ?
諦めるどころか俺ァ兄のような広〜い気持ちでルフィとの事を見守ってるんだけどなぁ。
「クロレラだよ馬鹿。‥‥‥‥‥‥‥‥そんなん知ってるし。やっぱ、お前馬鹿?」
「てめぇは ナミの事好きなんだろ。」
クソ馬鹿だコイツ。単細胞植物のくせしてなんだか情けないツラしてやがる。
「ナミさんか〜。いい女だよなぁ。優しいし 気は利くし 頭は切れるし 度胸はあるし ナイスバディだし 小悪魔的な所もすげぇいい。 好きだと思うよ。‥‥‥‥でもそれは仲間としての 好き だ。 恋愛対象としてじゃァない。」
「てめぇナミとキスしてただろ。あの誕生日の夜。翌朝もナミとくっついてたじゃねぇか。」
「なっ!!テメェ‥‥‥‥何でそれを。 もしかして覗いてたんかよ。 やだなぁ、覗き癖のある未来の大剣豪なんて。」
「やっぱキスしてたんだな。」
「あぁ、もらったぜ 熱〜いのを ここにな。」
頬を指差しニヤリと笑ってやった。みるみるゾロの顔が赤くなり凶悪なツラになる。
「だが、それもテメェにゃ 関係ねぇだろ。」
サンジは口端を持ち上げ吐き捨てるように言って ゾロの脇を通り抜けようと動く。
あぁ、馬鹿は俺だ。ゾロと久しぶりに口聞いて 間近で顔見て こんな険悪な状態なのに‥‥‥‥気分は凄ぇ高揚してやがる。 早く甲板に行って頭冷やしてぇ、タバコ吸いてぇ ニコチン切れだ。 このまま二人でいると なんかヤベェ気がする。 だからキッチンから出ようとした なのに
ゾロはすばやく動くと行く手を遮って 壁に俺を押し付け手を掴んだ。
「‥‥‥‥くねぇ。」
「は、何か言ったか?」
このマリモちゃんは、人の手を握って俯いちまって。‥‥‥‥っうか、そりゃ痛い方の手なんだけどよ。
「‥‥‥‥関係なくなんかねぇ!!」
「何か誤解してるみてぇだが、俺、ナミさんは好きだ。けど 妹のように思ってるからよ。」
タバコ吸うから手ぇ離せ、痛ぇんだよ。と言うと、ゾロはすんなり手を離した。


ようやくありつけた煙に乗せて 胸に溜まった空気を吐き出した。
タバコってのは 堂々と溜息が吐ける。 こんな時ほど便利なモンはねぇよな。 これで一人だったら言う事ないんだが‥‥‥。
サンジは 椅子に腰掛けて 左手を横に立つゾロに預け 又一つ溜息を吐く。
また人の手勝手に掴んで傷を見てやがる。 こいつって傷フェチだったか? よく傷は拵えてくるけど、アレは傷フェチだったからわざとか?

「コックなら手を大事にしろ」
「そうだな、‥‥‥‥‥‥料理の出来ねぇ 俺は必要ねぇからな。」
サンジの手を包み込んでいたゾロは顔をあげて、自嘲気味に笑うサンジを見た。
サンジはゾロから手を引き抜く。
「な に 言ってやがる。 てめぇは料理人だろ。 手は料理人の命だって言ってたろうが。」
「俺の手が駄目になったら、新しいコックを探せばいいさ、そうだろゾロ。 簡単な事だ。」
  だとしても、この船を降りる気はねぇけどな。 残念だったなクソマリモ。
くくくくく‥‥‥、腹の底から笑いがあがってくる、やるせねぇ笑いで自分に反吐が出る。 サンジは横を向いて煙を吐き出すと 灰皿に短くなったタバコを押し付ける。
「本気で言ってんのか クソコック。 てめぇはオールブルーを見つけて そこでいろんな魚を使って料理作んだろ。」
口端をあげて笑い出したサンジを睨むようにゾロの低い声が降りてくる。
「あぁそうだ。でもこの船じゃなくてもそれは出来る。」


サンジは笑う事をやめ、キッチンに沈黙が訪れる。サンジはじっとゾロを見た。
そうだろゾロ、 コックは俺じゃなくてもいいんだろ。 コックでなくなったら俺はテメェの仲間でさえないだろ。 何とか言えよ、‥‥‥‥‥それか、もうほっといてくれ。 何とも思ってねぇんなら もう俺に関わらないでくれ。



新しいタバコを取り出すとゆっくりとそれを吸った。

ゾロは何も言わない。

タバコを揉み消すと サンジは席を立つ。
「今のところ この手は動いてるからよ、テメェには残念だろうが、俺ァまだこの船から降りねぇよ。」
肺に残った煙と一緒に言葉にだして 背筋を伸ばしキッチンのドアに足を向けた。

「‥‥‥‥ここに居ろ。」
「‥‥‥‥‥‥っ。」
ドアから半分でた身体をゾロが後ろから抱きこんでくる。
「居てくれよ、  サンジ‥‥‥。」
「‥‥‥‥‥‥。」
何で 名前を呼びやがる。
何で そんな声を出しやがる。
俺の胸の前に回したその手をどけろ。
「俺ぁ てめぇと一緒にいてぇ。例えコックじゃなくなったてめぇでも一緒にいてぇんだ。」
コックじゃなくなった俺でも一緒にいたいだと?
「な、‥‥‥‥‥‥」
「勿論、てめぇの料理をずっと食い続けてぇから 俺ぁてめぇの側にいる。コックの手は俺が守る。」
「何言って‥‥‥‥‥‥」
「てめぇが 船を降りるってんなら 俺も一緒に降りる。」

「馬鹿なこと言うな。ルフィがそんなこと許すわけねぇだろ。」
「てめぇが降りる事だって許さねぇよ。」
肩にゾロが頭を乗せる。
肩に感じる体温は 暖かく。頬をくすぐる緑は懐かしい匂いがして。くすぐったくて、サンジは眼を瞑った。

今言ったのは本当か?俺はテメェに嫌われている訳じゃねぇのか。


「俺は守ってもらうつもりなんか無ぇ。」
「あぁ、知ってる。」
「なら何でそんな事。」
「お前ぇが強い男だって俺は知っている。その強い男と並んで俺は生きていきてぇんだ。
‥‥‥‥鷹の目に負けた時から 俺はてめぇの飯を食って強くなった。これからもっと強くならなきゃならねぇ。
それにはてめぇの飯じゃなければ駄目なんだよ。他の誰かの飯じゃ俺は強くなれねぇ。」
「‥‥‥‥」
「だから、てめぇの手は俺が守る。」
「一度も美味ぇって言った事ねぇじゃねぇか。」
小さい声でサンジは呟く。その手は胸に回されたゾロの逞しい腕におずおずと伸ばされる。
「てめぇの飯は いつでも相手の身体を考えて作られている。しかも味も絶品だ。それはてめぇにとって当たり前の事だろ。」
「でも、言われないと そいつにとって美味ぇのかどうかわかんねぇよ。味覚なんて人によって違うからな。」
「俺には てめぇの飯はどれも美味ぇ。特に煮物が極上だ。」

「へへへ、そうか。 テメェに守ってもらう事は遠慮するが、その言葉だけは有難く貰っておくぜ。」
纏わり付く逞しい腕に手を絡めゾロの腕の感触を味わってから、ゆっくりと腕を外す。
このままここに居ては何かを期待してしまいそうで‥‥‥。
肩に乗った暖かい重みを 離れ難く思いながら手で後ろに押し上げ振り向かず階段に足を向けた。

「てめぇは俺の事好きじゃないかもしれないが、クソコック。俺はてめぇを気に入ってる。誰にも渡したくなんかねぇ。」
「クソマリモ、テメェ随分と都合がいいじゃねぇか。」
「‥‥‥‥」
てめぇを気に入ってる?誰にも渡したくなんかねぇ?それはどういう意味だ?
あぁ、セフレとして手放す気はねぇって事か。島のクソ野郎にやられたのが気にくわねぇのか‥‥‥。
サンジは大股でキッチンまで戻ると ゾロの襟首を掴みキッチンの壁にゾロの身体を叩きつける。
ギリギリとシャツを掴み上げ ゾロを睨み付けた。
「セックスフレンドはもうやめだ。男とやるのは飽きたって言ったろうが!」
「セックスフレンドなんかいらねぇ。俺は、てめぇが気になってるんだ。ずっと側から離れたくねぇ。てめぇの心が欲しいんだ。」
「は?」
「てめぇが、好きだ。」
ゾロの大きな手が呆けたサンジの頬を挟み込むように動き 静かに囁きながらサンジの唇に自分のそれを合わせる。
すぐに離れたそれをサンジは目で追う。ゾロと視線が合うとシャツを掴んでいた手を離しタバコに火を点けた。
「テメェ、レディに失礼だぞ。」
意外なゾロの言葉に 冷静に言葉を紡ぐ自分がいるのをサンジは不思議な想いで感じていた。
「はぁ?どこの女だ?」
「テメェが持ってる‥‥‥‥指輪のレディだよ。前の島でテメェとホテルから出てきた栗毛の彼女だ。」
指輪・ホテル・前の島 ゾロは単語を並べ頭をフル回転させる。
「‥‥‥、あの女はあの日会ったきりだ。」
「‥‥‥そうかよ。じゃぁ、くいなちゃんて 大事な約束した子が国で待ってるんだろ。そのくいなちゃんに失礼だ。レディを泣かせたらテメェをオロスぜ。」
何故、ここでこいつの口から くいなの名前が出てくるんだ?またこいつは 勝手な想像してやがる。

「くいなが泣く事はねぇ。」
「そうか?テメェがそんないい加減な奴だと知ったら 泣くんじゃねぇか。」
「くいなは 泣きたくても泣けねぇんだよ。‥‥‥‥‥‥もうこの世にはいねぇからな。」
「‥‥‥‥‥‥。」
「ガキの頃。道場でどうしても勝てねぇ奴が一人だけいた。それがくいなだ。 くいなはガキの頃に死んだ。‥‥‥‥‥俺はこのくいなの剣に 世界一の剣豪になると誓った。」
ゾロは優しい眼を腰の刀に向け 一本の柄をぐっと握るとガチャリと音を立てた。
「その刀の子がくいなちゃん‥‥‥だったのか。」
「あぁ、てめぇには刀の事しか言ってなかったからな。くいなの名前は知らねぇだろうよ。」
「そうか、そうだったのか‥‥‥。」









    



「そうか、そうだったのか‥‥‥
そうなんです、すいません。ごめんなさい
サンジくんはゾロの和銅一文字の元の持ち主が
くいなちゃんだって事知らない設定になっています。

まだ続きます(汗;)もう少しお付き合いください2005.3.19