「そいつら返してくれねぇかな。俺の連れなんだけど」
 突然後ろから近づき仲間を蹴り飛ばした優男に 男達の視線が集まる。
 金色の髪に白い肌。この辺の島ではお目に掛かれない人種に男達から口笛がもれる。
 口笛を悲鳴に変え、さらに数人を動けないように蹴り倒し近づく
「サ、サンジ!!チョッパーが海楼石に‥‥‥っ」
 見れば、ぐったりとしたチョッパーと傷だらけのウソップ。
「兄ちゃん、あんたの連れかい?昨日仲間がお世話になったみてぇだから、ちょっとお礼をね‥‥‥。なんならあんたに礼してもらってもいいんだけどな。」
「へぇ。何を礼すりゃいいんだ。」
 サンジの目が細く顰められ口元が剣呑に引き上げられる。
「とにかく一緒に来て貰おうか」
 優男の一変した表情に 男が明らかに怯みながら声を張り上げる。
 前方で小さく抵抗するウソップのこめかみに銃が突きつけられているのが見えた。
 ここからでは銃を持った男をやるには距離がありすぎる。
 その隣でチョッパーは海楼石で力が入らないようでくたりとしていた。
 この不利な状態にホールドアップするサンジに男達が殴りかかった。
 拳が顔と言わず 身体と言わず振り落とされた。
 やがて無抵抗に倒れたサンジにその手も止まり。
 二人の側に連れて行かれた。


「チョッパー大丈夫か?」
 ぐったりとした仲間に近づき耳元で囁くとチョッパーが小さく頷いた。
「なぁ、タバコに火ィ付けてくれよ。」
 後ろ手に縛られたサンジが隣の男を顎でしゃくる。
 ウソップに目配せすると ウソップが突然しゃがんだ。
 サンジの脚が瞬時に動くと、銃を突き付けていた男が吹っ飛び、海楼石をチョッパーに当てていた男がすっ飛んだ。

「ガードポイント!行くぞウソップ!」
「頼んだぞチョッパー!!」
 毛玉になったチョッパーに張付いたウソップごと二人を出来るだけ遠くに蹴り出す。
 目の端で二人が見えなくなったのを確認しながら サンジは敵を蹴り倒し続ける。
 残すは後数人と思った頃 拘束された腕でバランスが崩れ脚がとられた。
 慌てて持ち直そうとしたサンジの首筋に冷たい金属が当てられ
「クソッ」
 舌打ちしたのと同時に頭に衝撃を感じてサンジは意識を手放した。







 真っ白い空間にテーブルと椅子
 そこにいるのはゾロと自分
 二人差し向かいで飲む酒は先ほど手に入れた米の酒だ
 笑う自分、笑顔のゾロ
 愛しそうに見詰める手元の酒
 穏やかな時間、穏やかな二人
 居心地のいい空間にサンジはゾロを見詰めた
 ゾロの視線は手元に注がれたままだ
 愛しそうな視線を追ってゾロの手元を見ると グラスは歪み始め、そのまま形を変え銀色のリングになった
 ゾロはリングに優しげな視線を送り、じっと見詰める
 いつの間にかゾロの隣に女性が佇んでいた、ゾロは振り返り彼女の手にリングをはめるとそれはそれは優しげに微笑む
 やがて顔を上げてサンジを見ると 苦虫を噛んだ様な顔をして 眉を顰めた
 その後視線をはずすとサンジが話しかけても 笑いかけても 
 ゾロは彼女とリングをずっと愛しげに見詰めたままだった










 クソッ。
 口の中で小さく呟いて目を開けるとそこは倉庫のような所だった。
 やな夢を見ちまった。
 ゾロのあの顔が未だ離れない。
 あの愛しいものを見る眼差しと、俺に向けられた後悔した顔。
 夢の中で まざまざと見せ付けられた現実に打ちのめされるなんて情けねぇ。
 そして俺の奥底にあるもの。
 昨日開放した筈の想いは まだ俺の中で燻っていたようで‥‥‥。
 ゾロに惹かれる想いは、簡単に無かった事には出来ない。

 ‥‥‥仲間としてなら 近くにいても許されるだろうか。
 いつか仲間として、あいつの幸せを共に喜べる日がくるのだろうか。



 後頭部がズキンと痛んでサンジは眉を顰めた。




「お目覚めかい。あんた」
 ご丁寧に足まで縛ってやがる。
 サンジは倉庫を見渡すと見張りのいかにも下っぱと思える男を2人確認した。
 飛び道具は持っていない代わりに 安物の剣をぶら下げている
「テメェらのボスは?」
「後であんたのこと可愛がってくれるってよ。」
「ボスは何処だ?」
「そんな事より、あんたには寝ててもらわねぇと。ほら睡眠剤だよ。」
 抑えようとする男を 思い切り曲げた脚をバネにして蹴り飛ばす。
 転がって両手両足を拘束され動きは制限されているが威力はあった。
 おかげでその男は壁にぶつかり意識を飛ばして伸びちまったが、物音で新たなむさ苦しい男が数人部屋になだれ込んで来る。
 飛び込んできた男を蹴ると 俺の首筋に冷たい剣の感触。
 注射器を取り出した男が舌なめずりして腕に針を当てた。
 俺は首をのけぞらし、剣に向かって脚を振り上げる。
 瞬間脚が自由になる。そのまま近くの男を蹴り倒した。
「あぁ〜あ、やっちまった。」
 拘束していた縄を切るだけのつもりが肉まで切っちまったらしく脚に痛みはあるが、眠気覚ましにはこれ位が丁度いい。
 部屋のクソ野郎共を伸すと、手首の拘束を切って外す。
 部屋を出るとサンジは次々と現れる男達を蹴り上げ、床に沈めていく。
 進みながら途中の部屋に数十人の女性や少年が捕まっているのを見つけ 声を掛けるとドアを蹴り倒し彼らを解放した。
 手薄になった廊下の先にある奥まったドアの前の武器を持つ数人はサンジの好戦的な顔を見ると一瞬怯む。
 手に持った飛び道具を構える隙を与えずに サンジは手前の敵をまとめてなぎ倒した。
 ドアに張付き震える手でピストルを向ける男の弾を避け そいつに踵を落とし、そのまま流れるような動作で
 胸ポケットからタバコを出し火を付けた。


 クソッ 薬が効いてきやがった。
 視界が霞み瞼が重い。
 クラリとする意識を脚の痛みで無理やり引き止める。
 最後まで警備されていたこのドアの向こうにはきっと この馬鹿共のボスがいる。
 部屋に幽閉されていたレディ達は、傷だらけで‥‥‥、助けに来た俺にさえ怯えていた。
 本当に解放されたのだと知って初めて ひきっつっていた表情を和らげたのだ。
 そんな女性や少年を食い物にするような 乱暴に扱う奴らをこのままにしておけねぇ。
 サンジは煙を吐き出すと 勢いよくドアを蹴破り中に飛び込んだ。

 中にいたのは 意外にも精悍な顔をした中年の男だった。
 その隣にもう一人若い男がいる。
 もう時間がねぇ。力もあんまり入らねぇ。
 サンジは薬が効いてきたのを実感する。
 早くケリを付けねぇと‥‥‥。
 近い方の若い男の間合いに飛び込むと 長い脚を振り上げる。
 そのままけり倒す筈だったのに 男は倒れもしなかった。
 男がサンジの脚を腕で受け止めたのだ。今までの雑魚より少しは手応えがあるようだ。
「上玉なのに勿体無い。グリフ様が折角優しく可愛がって下さる筈だったのに」
「煩ぇ、変態野郎共がっ!」
 力が入らないとはいえ サンジの蹴りは強烈なものだ。
 それを止めた男は サンジの傷ついた脚をグリグリと握り締めた。
 その手を外そうと伸ばしたサンジの左手を 男の空いた手に握られたナイフが襲い
 手の甲から突き抜けたナイフがサンジの手に残される。
 クソッ、一発でやってやる。 痛みに顔を歪めながら、サンジは握られたままの浮いた脚を支点に 身体をひねって跳躍すると
 そのまま男の頭に渾身の力を込めて蹴りをぶち込む。 と、男と共に床に倒れこんだ。
 傷付いた皮膚が裂ける感覚がする。
 脚の上に倒れこんだ意識を失った男の下から 這い出ようとした所で首筋にちくりと痛みを感じた。
 振り向くと中年が注射器を手にして 脂ぎった笑いを浮かべていた。
「あんた強いなぁ。綺麗だし‥気に入った。部下共はいくらでも替えがきくが‥‥‥、あんた欲しいな。」
 刺さったままのナイフをぐりぐりと揺らし、醜く笑うと舌で唇を舐め上から見下ろす男を サンジはギリリとにらみ付ける。
 繋ぎ止めようとする意識とは反対に 瞼が重くなり、身体が上手く動かない。
 力の抜けた身体をテーブルに押し付け男の手が這う。
 引き裂かれ肌蹴られた胸に男の体温が触れる。
「‥‥‥気持ち悪ィ。」
 男に触れられるなんて嫌悪でしかない。
 眠気の中で首筋に感じた男のぬるぬるした舌に どうしようもない寒気を感じた。
 気持ち悪ィ、気持ち悪ィ 気持ち悪ィ 気持ち悪ィ 気持ち悪ィ
 意識せずにサンジの目から涙が零れ、流れた。
 隣で口から血を流し倒れている先ほどの男が霞んで目に入る。
 落ちていく視界に 緑が見えた。


 











 船に帰ってきたチョッパーとウソップは傷だらけで、ぼろぼろ涙を流しながら状況を説明した。
 自分達を逃がしてくれたサンジが戻らない事、街の人たちの話を。
 敵が海楼石を持っているなら ルフィは留守番。チョッパーはサンジくんの匂いを追って、近づいたらウソップと隠れてるように。
 ゾロはチョッパーに案内してもらってサンジくん連れて帰って来る事。
 判ったわね。頼むわよ。 と指示を出すナミに異議を唱えるものは無く、(若干一名俺も行く〜と騒いだのは居たが鉄拳に沈んだ)船を飛び出した三人はサンジを追った。

 匂いを追って進むと 林の奥から若い女や少年達が裸足で走って来るのが見えた。
 互いに身体を支えあい懸命に走る彼らが ゾロを見て怯えたように立ち止まる。
「あんた達、金髪の黒いスーツ着た男見なかったかい。仲間なんだ」
 後から顔を出したウソップに言葉に 明らかにホッとして女達が顔を見合した。
「あ、あの。あの方の知り合いなんですか?私達助けていただいたんです。」
「コックは‥‥‥何処に居る?」
 地を這うような低いゾロの声に 女達から悲鳴が上がる。
 それでも一番年上に見える気丈な女が建物の位置を告げると ゾロは走り出していった。

 屋敷に着き 入り口を入ると数多くの男が倒れていた。
 長い廊下にも蹴られたんであろう累々と転がるチンピラ共の姿。
 廊下の突き当たり、その奥で何か動く気配がある。
 刀を抜き身構えながら、部屋に入ったゾロが見たのは
 サンジに覆い被さり服を脱がそうとしている男だった。
 ゾロは男が振り向くより先にその首を斬り落とすと、傷だらけのサンジの身体を抱えメリー号へと運んだ。








 格納庫の簡易ベッドの上でサンジは眠り続ける。
 側にいるのは剣士ゾロだ。
 発熱した体の汗を拭き、サンジの手を握る姿にいつもの剣士の面影は無い。
 殴られたような後の残る赤黒く腫れた頬にそっと手を伸ばした。
 節の太い無骨な指が傷を労わるように優しく撫でる。
 看護の交代を申し出る声に耳も貸さず ゾロはサンジの側を離れなかった。












 気持ち悪ィ
 気持ち悪ィ 
 気持ち悪ィ 
 気持ち悪ィ 
 気持ち悪ィ 
 気持ち悪ィ
 気持ち悪ィ!!

 男に触れられるなんて嫌悪でしかなかった。
 眠気の中で首筋に感じた男の舌に 肌に触れた手にどうしようもない寒気を感じた。
 その触れた部分を刃物で切り落としてしまいたい位に。
 ゾロ以外の男に触れた事の無い身体は 本能で他の男を嫌悪した。
 そりゃそうだろう、自分はこれまで19年間ノンケだったのだ。
 それが気付いたら男に好意を抱いていた、それも無愛想なゴツイ剣士に‥‥‥。
 俺は豪快な生き様のゾロだからこそ 身体を重ねたいと思ったのだ。

 でも‥‥‥‥‥‥あいつも男の俺を抱く度に 気持ち悪いと思ったのかもな。
 それももう終わりにしてやるよ、クソ野郎。

 サンジは暗い眠りの中を彷徨っていた。