───しょうがねぇよな…こればっかりは.。 相手が有ることだから。 これ以上おかしくなっちまう前に・・・仕舞いにしよう。 俺は・・・・そんなに強くねェんだ・・、クソ剣士。 ***
麦わらを被った船長の後姿をなんとなく目で追って、船の中央・・・ラウンジに消えるのを見て空を仰いだ。
青い空にコックの顔が浮かんで消える。
俺はコックが好きだ。
コックも俺を好きな筈だ。
……「筈」?
筈 ってなんだ?
だって、俺が抱き寄せても
あいつは拒まない。
いつも俺を黙って受け入れる。
散々、俺を 「好きだ」 と言った。
ナミもウソップも 『コックは俺を好きなのだ』 と言った。
あれは真実だろ?
青い残光の残る閉じた瞼の裏で 『本当にそうか? ゾロ?』 とルフィが笑った気がした。
それでも、自分の気持ちは変わることはないのだと。
不安な気持ちを抱えながらラウンジに視線を流すと 丁度コックがトレイを手にドアから出てくるところだった。
まっすぐに俺に近づいて、握り飯の乗ったトレイをそばに置いた。
「食え、・・・腹減ってんだろ。」
そのまま戻ろうとする背中を引き止めたかった。 俺の気持ちを言わなきゃいけないと思った。
「コック。」
「・・・あ?」
「・・・。」
・・・どこから言えばいいのだろう。 この想いか、今までの詫びか?
「なんか用か?・・・・あ、酒だったらラックから好きなの持ってけ。」
何も言わない俺に痺れを切らしたのか コックは目を合わせないままそう言って、タバコを咥えた口元を歪めると デッキに向かい長い足を踏み出した。
!! 行っちまう。
「悪かった・・・・・。」
・・・コックが俺の前から立ち去る素振りに 俺は思わず立ち上がり、咄嗟に言葉が口から飛び出した。
階段に足を掛けたコックが ゆっくりと振り返る。
「あ。 ・・あのよ、 今まで悪かった。」
蒼眼を隠すように 紫煙が立ち上る。 こちらを見上げながら特徴ある眉が 訝しむように寄せられたのが垣間見れる。
「・・・・・・・何のことだ?」
何の事って。
ここでその説明をしろというのか? 人が謝ってんだ、解れよ・・そんくれぇ。
「なにって。 ・・その・・今まで・・。」
「・・・・あぁ!」
さも、今解かりましたと言うように 目が見開かれ、蒼眼が俺を見た。
「今まで・・・悪かった。 もう無理にはしねぇ。」
今度はすんなりと口から出た俺の言葉を 飲み込むように コックが一度目を閉じた。
再び瞼を開けると、コックは階段を引き返してくる。 その目は俺を捕らえて離さないほど力強い。
「本当に悪かった。 てめぇの気持ちも考えずに・・・。」
「気にすんなよ。」
「・・・・。」
ふーっと 空に向かってひとつ紫煙を吐くと 片口端を上げてコックが俺を見た。
その不敵に笑う顔は、俺たちがこんな茶番を始める前の よく見知った顔だ。
久しぶりに俺に見せたその顔は、ほっとするのと同時に懐かしさを感じさせて・・・、俺は安堵の息を漏らす。 すぐにそれが裏切られてしまうとは思わずに・・・。
「気にすんなよ、クソ剣士。 こっちも楽しませてもらったし、・・・・・・・こうも簡単に引っかかるとは思わなかったけどな。」
「引っかかる?」
「くくっ・・・。 お遊びのつもりが 俺ァ、とんだ傷物になっちまったぜ。」
その言葉を聞いた途端 血の気が引いて。
一瞬後 頭に血が上った。
なに?! 遊びのつもり・・・・・遊び? だと!?
「てっ!! てめぇそれはどういう・・・・。」
「どうゆうも こうゆうも、言ったとおりだ。」
「お前・・・・・・!」
「ゾロ!」
睨む俺の視線を外そうともしない、コックの胸倉に手を伸ばしかけたその時、ルフィの体がコックと俺の間に入り込んできた。
「何だよルフィ。 俺は今コックと話してるんだ 向こうへ行ってろ。」
「・・・いかねぇ。」
「は? お前に関係ない話だ。 悪いが外してくれ。」
「俺にも関係あるじゃねぇか。 サンジの事だろ?」
「そうだが・・・。」
「さっき言わなかったか? 俺、サンジと付き合ってっから♪」
・・・・・・・・・・・な・・・に? 好きだとは聞いたが、そんな事は聞いちゃいねぇ。
「ゾロ、サンジは俺のもんだから今後一切手を出すな。 いいか判ったな。」
サンジを庇う様に立つ背の低い筈の年下の船長が、 何故だか俺を圧倒した。 だがここは引くわけにはいかねぇ。
「俺はコックと話があるんだ。」
「もう話す事は何も無いさ、なぁ、サンジ。」
「あぁ。」
「ルフィと付き合ってるって・・・コックどういうことだ?」
「俺とルフィの事は、テメェには・・・関係ねぇよ。 」
「ゾロ、しつけぇぞ。 さっき話した通りだ。」
「・・・・・・・・コック。 お前は、俺を好きだと言ったよな!?」
「・・・・。」
「今は、俺と付き合ってるんだ、ゾロ。」
「うるせぇ! すっこんでろルフィ。」
気付けば間に入ったルフィの胸倉を 掴んでいた。
俺の前から引かないルフィと、コックの言葉に怒りが湧き上がり。 その怒りのままの勢いで、掴んだ手を海に向けた。
バッチャーン
その音がするまで、俺は気付かなかった。
放物線を描いたルフィが 特に抵抗することなく海に落ちた事に。
「バカヤロウ!!」
青い顔をしてジャケットと 靴を手早く脱ぎ捨てたコックが 後を追って海に飛び込むのを俺は呆然と見ていた。
俺ハイッタイ何ヲシタ? 自分の船の船長を・・・海に投げたのは、この俺か?
自分のしでかしたことに思考が付いていかない。
海水でぐったりと力を失ったルフィを引き上げウソップに預けた後、 ずぶ濡れのコックが甲板にあがった。
歩く度に甲板に濡れた染みを作りながら 俺のほうに向かって来る。
「・・・・・・ ルフィにあたんじゃねぇよ。」
睨むんでも、蔑むんでも、微笑むでもなく、ただ真っ直ぐに俺を見る蒼眼。 感情の見えない蒼が真っ直ぐに俺を捕らえた。
「・・・・・・最低だな・・・・。 俺も最低だが
ゾロ・・・てめェも最低だ。」
そう言って、甲板に寝かされたルフィを見て、再び感情の無い眼で俺を見る。
「俺ァてめぇのことなんか好きじゃねぇ。 確かに、お前に惹かれていた時も・・・有ったのも本当だ。 だが・・・・それは勘違いだった。 」
「 退屈な海の上のちょっとした遊びだ、笑わしてもらったぜ!? てめぇは簡単に引っかかってくれて面白かったよ。 だが、もう飽きちまった。 仕掛けといて悪ィが、あんな事はもうしねぇ。 俺は忘れるから、お前も・・・もう忘れてくれ。 ・・・だからてめぇは謝らなくていい。」
告げられた言葉に声が出なかった。
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