***蔑まれるか 呆れられるか承知の上だった。 ・・・だが、いいのか? と確認するように聞き。 それでいいのなら とルフィは笑った。 それでいつものサンジになるならおやすいご用だ、と。  「俺、サンジ好きだぞ、な?」 なだめるように笑うその笑顔が、いつもと変わらなくてたまらなくホッとした。***










 あいつを好きなのだと理解すれば今までの全てがパズルのように埋まっていく。

 好きだ好きだと言いながら、俺の視線を正面から受けようとしなくなった事にイライラしたのも。

 ナミやウソップに背中を押される姿を見て、仲間とのゲームだと思いムカついたのも。

 本気にして落胆したくなかった。
 後であれはウソでした、とからかわれるような無様な思いはしたくなかった。 ならば最初からふざけているのだと考えた方が自分が楽だった。



 ざまぁみろと思っていたんだ。
 俺をからかう あいつを痛い目にあわせてやろうと思った。
 後悔させてやる。  それしか思ってなかった。
 抱いている最中涙を流していたあいつ。 あいつは 涙を流すほど俺が嫌だったというのか!?
───なら何故俺に抱かれた?


 眼を合わせないあいつが本当に俺を好きなのか・・。
 他の奴らの事は真っ直ぐに見るのに 俺だけ反らすのは何故なのか。

 拒絶しなかった行為に 慣れているのかと悔しかった。


 ナミたちクルーにからかわれていると思っていた。
 昨晩も二人を見て優しい表情を見せるナミを見ていたくなくて、その話を その表情を。 終わらせようと話を塞いだのだ、無意識に。




 好きだというあいつの言葉を真に受けて、己が傷つきたくなかったんだ。

 本当に俺を好きなのかと不安だった。

 だが、無意識のなかでも俺はあいつが欲しかったのだ。 だからからかいへの復讐だと口実を付けて何度となく抱いた。
 そんな口実を付けなければ、嘘だと判ったときのショックからは立ち直れない。




 俺に向かって伸ばされない腕の温度を知りたいと思ったのも。

 俺の顔を見ようとしない閉じられた蒼い目が見たかったのも。

 声を聴きたいと思ったのも。





 無意識に自分から口付けようとしたのも・・・・。












─── もう、イタズラだろうとなんだろうといい、と思った。


 気持ちを見失って傷つけてしまう事が二度と無いように・・・自分の気持ちって奴を伝えるつもりでコックのいるであろう ラウンジを目指した。












 数時間前に自覚したばかりの気持ちを伝えたくて、 明けきらないほの暗い町を港に向けて歩いた。

 今まで俺がしでかした酷い仕打ちを詫び、今の気持ちをあいつに伝えたくて つい足早になる。 
 焦る気持ちとは裏腹に 目的地へと真っ直ぐに向かわない俺の足が船に着いた時には すっかり太陽も水平線から顔を出していた。




 船に戻れば朝食の美味そうな匂いの漂うラウンジのテーブルに 向かい合わせでコックとルフィが談笑していた。

 俺が入っていっても二人はちらりと視線を寄越しただけで、楽しそうに会話を続けている。




『放っとくと ルフィに取られちゃうわよ。 あの二人何だかんだ言って 気が合うんだから。』

 不意に昨日のナミの声が蘇える。 
 そういえばあの魔女はどこにいやがる? なんでこいつらと一緒にいない?! いつもならコックと二人話しこんでる時間じゃねぇか。 ・・・ルフィとコックを二人になんかさせてんじゃねェよ。 
───食べ物の話で盛り上がる二人が親密そうに見えて 口を挟む隙間は伺えない。 


 なんだか無性に腹が立つ。
 がたんと大きく音を立てて空いたイスを引くと 乱暴に座った。



「・・・飯くれ。 腹へった。」
 二人の会話を止めるのなら何でも良かった。
 奴がこちらを振り向くなら・・・。
 コックが、ルフィじゃなく俺を見るなら。


 案の定コックは、腹を空かせた俺を一瞥すると 会話を止めてシンクに向かった。 コンロに火をつけると暫しキッチンを動き回る。 
 やがて 湯気を立てたベーコンと野菜のボイルを載せた皿と 軽く焦げ目の付いたスライスパンを持ってコックがこちらにやってくる。

 近付いてくる。
 その足音がやけにゆっくり乾いた音を立てて、俺はごくりと唾を飲み込んだ。
「───コック。 わる・・・。」
「ひゃーっ!! うまそうだなぁ。 サンジィ俺も腹へったぞ!」
 ・・・・悪かった。 と、そう言うつもりだった言葉は、隣から皿を覗き込むルフィに浚われた。
「クソゴム、テメェはさっき食ったばかりじゃねぇか!! しかも朝から大盛り三人前。」
「そうだけどよぉ・・・。 減ったんだよ、飯食いてぇ!!」
「ったく。 どうなってんだよ、テメェの腹ン中は。」
「・・サンジィ。」
「ったく、甘ったれた声出しやがって・・・・・・・・・・仕方ねぇなぁ。 後でまた買出しに行くから、今朝は特別だぞ?! その代わり後でちゃんと付き合え。 ・・言っとくが、ツマミ食いは無しだ!」
 ルフィと隣り合わせにシンクの方を向いて座っていた俺は、ずっとコックを目で追っていたので珍しく大人しくしていた隣のルフィの事を失念していた。
 そうだ、ラウンジには こいつもいたんだ。 コックの顔を見てはしゃぐルフィが、喜びにイスから立ち上がるとコックの方に突進して行こうとする。 俺はその襟首を捕まえた。 
「これ食えよ、船長。」
「え! いいのか? いいのかゾロ?! も、貰っちまうぞ? 後で返せって言ってもダメなんだぞ?!」
「匂いだけで腹いっぱいだ。・・・いいから。 食え。」
 コックに抱きつく手前のルフィを長椅子の横に座らせ、代わりに自分は席を立つ。
「食っていい。 俺ァ・・・。 ちっと寝てくる。」
 言い捨てて、ラウンジのドアを開けて外に出る。 背後で クソコックの声が 「テメェ・・。」 と小さく俺を呼んだ気がしたが、俺は振り返る事無く後部甲板へと進むとごろりと横になった。










 折角の出鼻をくじかれ 言い出すタイミングを失った。
 ルフィとコックが一緒にいるのはよくある事だ。 限られた範囲しかない船の上。 限られたメンバーだからな。・・・だが、最近のあの親密さは何だ? いつもべったりで変だろ。
 視界に入るとイライラする。 

 ───横になったはいいが、さっきのルフィとコックがちらついて 一向に眠れそうにない。
 畜生。
 そう思いながらぎゅっと目を瞑った。





 ぺたぺたと軽い足音がする。 どうやらそれはこちらに近付いてくるようだ。
 はぁ。 と小さく息を吐き目を開けると 三メートル程先にルフィがいた。
黒い大きな瞳と目が合うと
「なぁゾロ。 俺サンジが好きだ! サンジは俺のモンだから。」
 麦藁をかぶった影があっけらかんと言った。


「だから、もうサンジに手を出すな。 」
 飯のおかずを取るな。 と、言うのと同じようにすんなり口にするルフィに怒りがこみ上げる。
 ・・・なんでこいつに そんな事言われないといけない? 言われる筋合いは無ェ。

「はは・・。 何の事だ? 冗談言ってんじゃねェよ。 ルフィ。」
「冗談じゃねェよ?! サンジは俺のモンだ。」
 何を言っている?  何故俺にそんな事を?  
 少年の無邪気な声に ゴクリと、つばを飲み込んだ。 嫌に喉が渇く。 水分が足りないのか・・自分の声が乾いて聞えやがる。
「俺はサンジが好きだ。 ・・・ゾロ。 お前が、サンジに何をしてるのかも知ってる。」
 きっぱりと言うルフィの顔はいつの間にか真剣な表情で ふざけた様子は伺えず、俺をじっと見詰めていた。  
───先に目をそらしたのは、俺だ。 
 だが。 これは譲れねぇ、俺もコックが好きだとようやくわかったのだ。 一度足元に落とした視線を再びルフィに向ける。
「ルフィ。 悪ィがコックはお前ェには渡せねェ。 」
「ゾロ。」
「第一コックは、お前ェじゃなくて、俺の事を好きなんだ。」
 そうだ、コックは俺を好きなんだ。 ナミもウソップも言っていた。 本人の口からも もう何度も聞いた・・・最近は言われる事も無かったけどな・・でもそれはきっと二人になる機会も無かったからだ。 



「・・・・・そうか??」
「・・・・。」
「本当にそうか? ゾロ?」
「・・・・。」
「お前を見るとき サンジがどんな顔してるか知ってるか?」
「・・・さぁな。」
「知ってるのか!」
「・・わからねぇ。」
 最近じゃ目が合うことも滅多に無かった・・。 ざまぁねぇが、よくわからねェ。
「サンジは・・お前を見るとき全て諦めたような目をしてるんだぞ?。 そんな顔させてよく言えるよな。」
 麦藁のつばの下から ククッと笑った。 その笑いが俺をバカにしているように聞えて俺はルフィを睨みつける。
「俺なら、そんな顔させねぇ。」
自信たっぷりにルフィは言った。


「俺はサンジが好きだ。 あいつを苦しめるような奴には渡さねぇ。」
「いや、あれは俺のものだ。 相手が誰でも ・・・・・ルフィ例えお前でも渡さねぇ。」
 とっさに口にしていた。あいつは俺のものだと、
「 サンジが苦しんでる姿を俺は見たくねぇ。 お前が苦しめてんじゃねぇのか?! ゾロ。」


 好き勝手に言い放ってルフィは去っていった。