熱の温度 4
「これ。 この位の薬しか今は無いんだ。 もしも熱が38.5度以上で、苦しそうだったら・・・・・使って。 目が覚めたら、とにかく水飲ませて 汗かいた服着替えてもらってよ。 頼んだよ、ね?ゾロ。」
蹄のある小さな掌に二つの薬を乗せた ピンクの帽子の船医が、つぶらな瞳でじっと見上げてゾロに言った。
昼前に到着した島は案外大きな島だが 医療品を売ってるような店は島の中心地に行かないと無いのだ。
接岸寸前に、「冒険ー! ・・・あっと。 サンジ、変わった食べ物探してきてやるからな!」とルフィが。
傷ついた船体の補修用品を仕入れにウソップが。
航海の途中で傷を負ったウソップの発熱と治療で底をついた薬剤を買いにチョッパーが。
「ゾロ、どうせあんたする事無いでしょ。 後は頼むわねw サンジくんの事ちゃんと見ててよ」 と凄みをきかせるナミと。
「さっ、おねぇさまv 行きましょ。」 と腕を引かれ、小さく笑ったロビンが。
それぞれ船を降りていき、今船内に残っているのは サンジとゾロの二人だけだ。
治安のいいこの島に 海軍が来ることは滅多に無いとの情報と、 浅瀬の岩礁に囲まれた入り江にはナミの技術と、海賊船としては比較的小さいともいえるキャラベルでしか入れないだろうことから、他の海賊の襲撃は考えにくく。
「あ。 別に見張りはいいから、留守番だけはちゃんとして、・・・頼むわ。」
船を降りていく際にナミがそう言っていた。
さわさわと清々しい風が緑の匂いを連れてゾロの鼻を擽る。 この暖かい陽気と心地よい風にこのままここにいては本格的に眠ってしまいそうだ。
「ふ・くぁぁ〜〜〜〜〜っ。」
二本の腕を天に真っ直ぐ伸ばして大きなあくびをした男が、座っていた甲板から立ち上がる。
留守番だから このまま寝てもまぁ良いかと 日陰を探しに足を踏み出す。
大きく伸びながら、唐突にチョッパーの患者を置いて出かけねばならない必死とも言える眼差が 自分に向けられていたのを思い出して ゾロは頭の後ろをぼりぼりとかき、
(しかたねぇな。)
体の向きをかえると倉庫に足を向けた。
「おい、コック。具合はどうだ?」
倉庫に置かれたウソップお手製簡易ベットに身を横えるサンジにゾロは声をかけた。
ドアの中は薄暗く、明るさに慣れた目は ベットのシーツをぼんやりと浮かび上がらせるだけだ。
すぐにもどらない返答に眠っているのかと、音を立てないようにゆっくりと立ち去ろうとして、船医の言葉を思い出す。
―――普段病気しないサンジだから、余計に気にしてあげてほしいんだ―――
体はドアに向けたままベットに視線だけをむける。
昨日ナミの言葉にへらへらと対しながらも チョッパーに抱えられるように連れられていくコックは覚束ない足取りだった。 あのクソコックのことだから仲間の前じゃ虚勢を張ってた筈だ、それでもあの様子・・・思ったより調子は悪いのだろう。
サンジの呼吸は、ただ寝ているだけにしては荒い。
ドアの向こうの明るさと 室内に浮かび上がるシーツのぼんやりした白を見比べて
「チッ」
小さく舌打ちをすると、ゾロはベットに歩み寄った。
そっと手を伸ばして額にあてると、そこはかなりの熱を発していた。
「なんともねぇ・・・・と、言いてぇ所だが・・残念ながら 良くは…ねぇよ、 クソ剣豪。」
閉じられていた目が開き 掠れた声が聞こえた。
間をあけて突然返ってきた声があまりにも頼りなさ過ぎて、ゾロは思わずサンジを覗き込んだ。
「起きてたか・・・。 じゃ、灯り付けるぞ、いいか?」
小さな明り取りしか無い倉庫の薄暗さでは 様子が良くわからない。
色の無いコックの姿に急にゾロは不安を覚え、返事を待たずに明かりを点けた。
くすんでいた室内に色が戻る。
白いシーツに埋まったコックの髪が金色を取り戻す。 それはまるでつい先日の見張り台の時のようで、何故か剣士の鼓動は大きく音を立てた。