***大の男が涙なんか流してんの見たら、引くよな・・。 好きで流した訳じゃねぇけどよ。 クソ・・・。
好きでも何でもねぇ俺を抱くには 声なんて邪魔だろ? こんな顔いらねぇだろ? 骨ばった身体も、女には無いペニスも。 昼間っから盛ってきやがって・・・・。 明るいところでやって後悔したか? お前が放りだして行っちまうのも解るさ、お前が入れてる相手が 嫌いな俺だったってのが見えちまったんだもんな。***
「お兄さん、俺買わない?」
金髪の男は、立ち竦んだままの俺の肩に手を回すと 顔を覗き込んできた。
あぁ、コックと同じ位の身長だ。
触れた手を払いながら 横に並ぶ肩と目線に 無意識にそう比べた。
「なぁんか、ぼうっとした兄ちゃんだなぁ。・・・・まァ、昼間っからなんだし・・、まずは酒でも飲みにいかねぇ?」
酒 と言う言葉に 動かない思考のまま酒場に足を踏み入れた。
キンと冷えた液体を喉に流し込むと、ようやく周りが見え出した。
剣士にあるまじき失態だな。
さっきまでの俺なら拙い刺客にさえ傷を許したかもしれねぇ。
そんな自分に失笑が洩れる。
何を動揺してるんだ 俺は?
本望じゃないか。 コックを痛い目にあわせてやって。
数杯目のなみなみと注がれたグラスの中身を 一気にあおり ドン とテーブルに叩きつけるように置いた。
目の前には 見知らぬ金髪の男が・・・こちらを見ている。
動揺したとしても、見もしらねぇ奴に付いてくるだなんて俺もどうかしてる・・・。
「俺ァ 金持ってねぇ。今の分はこれくれぇで足りるだろ。払っといてくれ。」
音を立てて椅子を下げ腰を上げる。 腹巻に手を突っ込んで触れた札をテーブルに置いた。
今はまだ船に帰る気はしねぇ。
もう少しその辺をぶらつくか・・。どこかで時間つぶさねぇと。
・・・思案している俺の背に男の声がかかって振り向いた。
「これ多いよ、半分でも釣りがくるぜ。 この店は旨いのに良心的な店でさ。 店長は前に有名ホテルのコックしてたんだぜ。」
店主と懇意なのか 自分の事の様に得意げに話すこの男の表情が、料理の薀蓄を話す時のコックのそれとだぶる。
だが肝心の褒め称える料理はと言えば、一人で海賊狩りをしていた頃なら手放しで、満足できた味だろうが 今の俺には物足りないもので。
あのコックが船に乗るようになってから 外での食事に物足りなさを感じるのだ、・・・不本意極まりない事だが。
再び席に腰を落ち着けて 酒を啜る俺の向かい側で 先程の男がニコニコと喋っている。
時折相づちを打つ俺に 嬉しそうに笑うそいつを見て 俺は気持ちがほぐれていくのを感じた。
あの男とは大違いだ。
あのコックときたら いるだけでこっちを苛々とさせやがる。
いつでも不遜な態度でいたくせに、最近ではどうだ?
突然好きだ好きだと告げてきて 然したる抵抗もせずに組敷かれる。
なのに こちらをちゃんと見もしねぇ。
あんなのはコックじゃねぇ。 コックはもっと 無駄に態度がでかくて、見下すような目で俺を見る筈だ。
意志の強い眼差しは どんな喧嘩をしても逸らされる事も無かった筈だ。
そういえば・・・口汚く罵られる事も最近は減ったな。
「・・・・・兄さん、・・ねぇ、お兄さん。」
グラスで揺れる琥珀の液体を見るとは無しに見ていた俺を 呼ぶ声に顔を上げた。
「ねぇ。そろそろ俺とイイコトしない? お兄さんタイプだからお金なくてもいいよ。」
テーブル越しに笑う男は 金髪で、・・・こんな商売をしている所為か線はコックよりも細い。
ニコニコと笑う顔も 男にしては 小奇麗だ。 顎鬚なんかも生えてはいない。
歳は、俺より下か? そばかすの散った顔は少し幼く見えた。
「いや、いい。そんな気分じゃねぇ。」
「え〜っ。俺の誘いを断るのぉ? 俺が金無しで、なんて滅多に無いんだぜ。 俺のタイプなんだよ兄さん。」
くしゃりと残念そうに苦笑いする男の素直な表情に、こちらまでつられて小さく笑みが洩れる。
それを見た男の顔がぱぁっと 明るくなった。
「な、SEXしよ! 俺、お兄さんとSEXして気持ちよくなりたいんだ。」
気持ち良く? SEXで気持ち良く?
妙にその言葉が引っかかる。
そういえば、あいつは
行為後「
気持ち良かった。」と言っていた、・・・・がどうだったんた?
いつも暗闇で、表情なんて見えなかった。
ただ笑ったような声を聞いただけだ。
俺は笑ったあいつを見た訳じゃねぇ・・・。
気持ちよかったと笑んだ雰囲気を残し、立ち去るコック。
・・・・気持ちいい訳ないじゃないか。
奴は欲望を出すことも無く。
今日も性器は勃ち上がっていなかった。
俺が与えているのは苦痛と屈辱のみなのに。奴は笑う。
どうして笑える?
すぐに反らされたが、光の下 反射したのはきっと涙。
白い肌を伝うのは、無理やりこじ入れられた出血。
どうして気持ちよかったなどと。
気持ちいいわけないじゃないか・・・俺が与えたのは苦痛と屈辱。
それ、だけだ。
ぐるぐるとその事が頭を巡る。
纏わり付く金髪の腕を引き剥がし 店を出る。
向かうのは港。
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