***俺を好きだと言ってくれなくてもいい。 嫌われてる事くらい最初から承知の上だ。 それでもいいと思ったのは俺だ。
 だから、てめぇの心を無理に捻じ曲げる事はしないでくれ、俺の事を気に掛けないでくれ、
 俺の体が役に立つんなら使ってくれて構わねぇ、だけど、・・・同情ならいらねぇ。 それだけはクソくらえだ。***













 再び突き入れたその背中から前に手を進め 滑らかな腹を通り下腹部へと片手を伸ばす。
 コックのそこは ゆるゆると頭を擡げているが、相変わらず完全に勃ち上がる気配は無い。
 それを確認すると 俺はその手をコックのうつ伏せの肩にかけて こちらに引いた。

 片側だけ引かれ僅かに持ち上がった顔を 突き入れたままの姿勢で覗き込む。
 ・・・と、上がった顔に連れられてコックの腕が上がる。
 なにやらコックの口元に当てられた腕に残った白いその生地は、口に当たる部分を中心に紅く滲んでいる。
 殴った時に 口切ったか? ただ、そう思った。


 肩を引く俺の手に抵抗を見せるコックから 邪魔な張り付いた腕を引き剥がす。
 なかなか離そうとしなかったそこは、口の形に濡れた跡と血の跡が滲んでいて 瞬間どきりとした。
 露になった筈の顔を コックは肩に力を込め、こちらに向けようとはしない。

 クソコック、何で見せねぇ。俺の顔は見たくねぇってのか?!

 ・・・そうだ、コイツは男色じゃねぇか。
 手の込んだ 嫌がらせをするほど嫌いな俺の顔見ると 外の男とやってる想像が消えちまうもんな。 
 だから俺の方をみねぇのか。
 
 ・・・ムカつく、非常にムカつく。



 苛立つ想いが 俺の腰を深く蠢かせる。
 両手で腰を掴み、淵ギリギリまで引き抜き 一息に押し進む。
 コックが喉の奥で小さく唸る。
 明かりの中、締まった尻を何度も出入りする赤黒い己。
 つられて聴こえる淫音と 泡立った白濁と 白い脚を伝う紅。
 視界に入るそれが 俺を例えようもない興奮の波に誘う。
 


 コックの聖域であるキッチンの、白いテーブルクロスに散った紅と 外されて行き場を失ったテーブルの淵を掴むコックの手。
 乱れた金。苦痛を含んだ荒い息遣い。

 全てが俺を倒錯の世界へと導く。





 もう少しで 二度目の解放を迎えようという寸前、それが目に入った。

 コックの頬を反射する光。
 表情を隠す金の合間に見えた 光の筋。
 伝い落ち、クロスに薄い染みを作るそれ。

 腰を掴んでいた手を伸ばすと コックの肩を引いた。





 目に入ったのは 


 頬を濡らすコックの横顔。

 すぐに俯くように戻された顔には 濡れた一筋が。



 涙?


 見た光景を理解した瞬間、さっと血の気が引いた。

 ・・・この男を涙させたのは俺か?



 白くなった頭でそんな事を考えた。




 











 キッチンを飛び出して。

 気付けば街にいた。

 饐えた匂いのする街の裏通りを ただあてもなく歩いた。


 頭の中を過ぎるのは後ろから見たコックの横顔。と染みを作るテーブルクロス。

 白い、白いテーブルクロスを 染める紅と落ちる透明な雫。

 いつから・・・いつからあいつは・・・。




 裏通り沿いの娼館の前を通る、俺の腕に絡みつく女を振りほどくように歩いた。

 商売女の媚びる様な仕草と 立ち昇ってくる安物の香水が鼻に付く。



 通りに立つ娼婦の間に 数人の男の姿が見える。
 その中に金髪の男を見付け 俺は先程のコックを思い出す。


 俺は、あの後コックから己を引き剥がし服を調えると船を降りた。
 二度目の欲望も放つ事無く、逃げるように引き抜いた。

 メリー号のキッチンは----火の付いたままのコンロから湯気が立っていた。
 部屋に入って暫くして 厚手の鍋からは濁った白い汁が少量零れていた。
 米の炊ける匂いがしていた。
 今日の昼は米か・・
 腰を打ちつけながら暢気にそんな事を思っていた。
 それがいつの間にか ぱちぱちと爆ぜるような音に変り、やがて香ばしかった香りが焦げ臭く変っていた。
 澄んだ空気が澱みはじめ。煙った空気が俺の肺を支配し始めたんだ。
 あいつは・・コックはあの後どうしたんだろう?
 あの焦げた米をどうしたんだろう?----揺れる金の髪を見ながらぼんやりと思い返す。



 と、その金髪が俺の視線に気付いたのか こちらに足を踏み出した。