***この手がその背中に触れる事は出来無くても、お前に少しでも触れていられればよかった。
だから・・・。***
あれから・・・、
コックの態度は、以前とさほど変らない。
俺が鍛錬していれば、一息つく頃にドリンクを持ってやってくる。
言葉の端に、好きだと告げてくるのも 回数は減ったものの、変らないことだ。
俺はそんなコックを 夜、組み伏せる。
昼間の俺はコックが近寄ってこない限り 自分からは近付かないし、話しかけもしない。
抱かせりゃ付き合ってやる、とは言ったが、以前とまるきり変りゃしねぇ。
元々世話好きなコックは ナミの言うように大量の仕事のほかにも クルーに声を掛けては世話を焼いているので、さほど頻繁には俺の側にはやってこない。
だから俺たちは 取り立てて前と変らなかった。 強いて言えば 以前よりもコックが好きだと言わなくなった事か。
だが、回数の減った筈のそれを言う時だけは、コックは俺の目を見る。
言ってすぐに目を伏せたり 軽く反らしたりするのだが、俺の眼を捕らえて言う。
その時だけは俺を見るのだ。
コックは好きだと言い始めるようになってから、僅かに視線をずらし、俺と対峙する。
俺を通り越して俺の後ろを見るようなそれが、俺のイライラを助長していると気付いてないのだろうか。
パラソルの下の女共にデザートを運んで ニコニコと笑うその顔を 離れた場所で見ながら、俺は昨晩の事を思い出していた。
コックは翌日の仕込があるからと、男部屋に来るのはいつも最後だ。
クルーが寝静まった晩、俺は船室のハッチをそっと開ける。
見張りに見咎められないよう 足音をほんの少し落としキッチンに進む。
キッチンには まだ暖かな明かりが灯っている。コックはまだ仕事をしているようだ。
思わずごくりと唾を飲み込むと足を進めた。
ドアを開けた俺に コックの背中が今日もビクリと揺れた。
丁度コンロの火を落とした所だったようだ、エプロンを外しかけていた腕が一瞬止まり、
再びぎこちなく動き出すのを 俺はドアを後ろ手に閉めながら見る。
コックは外したエプロンを 椅子の背にかけると 後ろ向きのまま何時ものように言った。
「酒なら、そこのラックから一本だけだぞ。」
もはや、ここ数日の同じことの繰り返しに 俺が酒を取りに来たのではないという事は解っているだろうに・・。
眼を伏せたまま動かないコックの前を過ぎ、 ラックへと手を伸ばした。
折角くれると言うのなら、貰っておくかと 酒を取るのも毎度の事だ。
ラックに背を向け 瓶のコルクを歯で抜き取ると そのまま一口啜る。
「こい。」
顎でドアの外を言外に指す。
キッチンに火の無い事を確認すると 俺は灯りを消して先を歩く。
格納庫に向かう俺の後ろを 少し離れながら大人しく付いて来るコックは何を考えているのか、俺には解らない。
だが、付いて来ると言う事は これは合意の上なのだ。
これから起こる事がどんなに一方的な事だとしても ・・・合意の上なのだ。
俺は今日も大人しく格納庫のドアを閉めるコックに 「脱げ。」と声を掛けた。
あの細い三日月の晩から俺はコックを 性的対象として見るようになった。
あれが男なのだとわかっていても 抱けるようになった。
しかし、俺は奴の性器には触らない。
あいつも 触れとか どうにかしろなんて言わねぇし、 第一俺たちの間には会話なんてもんはハナッからねぇ。
服も下しか脱がねぇし、女とするみてぇに前儀も何も無い。 突っ込むのも いつも後ろからだ。
コックのモノに触ったのだって最初の一回、勃起してるかどうか確かめたあの時だけだ。
俺は未だに突っ込まれているコックが どんな顔をしているか見たこと無かったし、見たいとも思わなかった。
男色癖のあるコックの顔なんて見たら きっと萎えちまう。
出せりゃァいい。そこに穴があるなら使わせてもらうだけだ。
コックだって嫌がってる訳じゃねぇしな。
変わった事と言えば、そうやって夜俺が コックで性欲処理するようになったのと、
あと一つ、行為の後コックが 「気持ちよかった。」 と俺に言って立ち去るようになった事くれぇだ。
突っ込まれて気持ちよかったなんて、やっぱりコックは男色・・ホモだったんだ、とどこかで思う。
ならば遠慮はいらねぇよな。
いつも暗闇で行われるその行為は どんどん回数を重ねていく。
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