**** ルフィ? 心配させちまったか?
「無理なんかしてんな。 俺にしとけよサンジ。」 そう言ってくれたルフィに・・・俺は、ムシャクシャした感情をぶつけてしまった。
だってしょうがねぇじゃねぇか…アイツがダメだからってお前にするなんて。 ンな簡単なモンじゃねぇんだから。 だが・・・そうだな・・・自分をごまかすのももう疲れちまった。 いつまでもみっともなく縋り付いていられねぇ。 初めて優しく触れてきた手と俺の名を呼んだ、奴の唇。 ・・・あぁ、クソ! 勘違いしちまいそうになっちまう。
抱かれる度に。 新しいお前を知る度に。 触れられるだけでいい。そう思っていたのに・・ギチギチと俺の中で何かが壊れていく。 偽善や同情はいらねぇ、嫌われてんならぶん殴られて突っ込まれた方がマシだ。 ***
ラウンジの中から漏れ聞こえる会話に耳をすましても 声は途切れ途切れにしか聞こえてこない。
──漂うのは、いつものふざけたような二人の空気じゃなかった。
目を閉じて寝ようとするのに、尻がムズムズして 居ても立ってもいられなかった。
俺は、あの朝のように小窓からキッチンを覗いた。
見えるのは背中からコックの身体を抱きしめるルフィ。
!?!
―――ルフィ! 何してる?
―――コック! テメェも・・何で大人しくしてやがる!? いつもみてぇに蹴り飛ばしちまえよ!
胸の前で合わされたルフィの腕に コックが手を重ねたのが見えた瞬間。
―――触るな。
出かかった声が喉に張り付き 空気に乗る事なく奥に消えた。
静かになったラウンジから たまたま鮮明に聞えてきたのは
「俺、サンジ好きだぞ、な?」 というルフィの言葉だった。
コックの背中に顔を埋めたまま 宥めるように言うルフィの声は、いつものガキのそれじゃない。
そして・・・うんうんと頷くように頭を動かすコックを見た俺は、情けないが逃げるようにその場を立ち去った。
「ゾロ! ここにいたのか? おやつ出来たぞ! 今日のは俺も手伝ったんだ。 食ってみてくれよ!!」
全開の笑みで告げるルフィは、両手でカップケーキの載った盆を持ち。
いい匂いをさせるケーキの山をゾロに差し出した。 口の周りが汚れている所を見ると 皆に配るのを待ちきれず、先にコックから貰って食ったのだろう。
「いらねぇ。」
「食わねぇのか? 食わないのかゾロ?! サンジが折角作ったのに・・美味いんだぞ。 ───ゾロが食わねぇんなら・・俺貰っていいか?」
「あぁ、やるよ。」
嬉しそうににししと笑うルフィを見ていたくなくて、俺は船縁に寄りかかると目を閉じた。
あの日から、サンジの隣に ルフィがいるのを良く見るようになった。
あの日・・・俺が初めてコックに口付けた翌日から。
ラウンジに 一緒にいた二人。 あの日、ラウンジに入っていけなかった俺は、あれからコックと二人になる機会がないままでいた。
数日とあけず、・・むしろ毎晩のようにコックで抜いていた俺は、ここ数日そんな機会がなくて 正直溜まっていた。 何がって、アレだよ。 俺だって、若い男だ。 わかんだろ?
今までの航海で 長い事上陸できない時は、自分で処理していたし、我慢だってしていた。 だが、身近な人間でいつでも解放できる術を知ってしまったら 我慢なんてききやしねぇ。
俺はコックと二人になる機会を探して、・・・改めてルフィの存在に気付いた。
メリーの上で潮風に吹かれるでもなくコックの傍にいるルフィ。
・・・ようやっと ルフィがチョッパーと遊んでるのを見て、ラウンジに行くと ウソップがその傍らで工場を広げていたり、女共がコックと談笑しているのだ。
深夜は独りで仕込をしていたのに 最近では日替わりで ウソップやチョッパー、ルフィが コックと喋っている。
今まで、コックが独りでいた時間は全部無くなって、代わりにその中の多くにルフィを見るようになった。
つまり俺は、・・・欲求不満だった。
もう、イタズラだろうが、からかいだろうが その腹いせなんかじゃなく、コックが抱きたかった。
溜まった・・・欲望を発散したかった。
なのに、そんな機会はない。
コックの傍にルフィがいる、そんな当たり前な筈の状況が・・・。
コックの事を「すきだ」と言っていたあの日が・・。
頭の片隅から離れねぇ。
そんな時だった、―――数週間ぶりに港に着いたのは。
いつもなら、最初に飛び出して行こうとするルフィがラウンジに残り
「買出しの荷物もちも俺がやる」
「船に泊まるから宿はいらねぇ」 と言い出して。
・・・俺はコックと一緒にいる口実も機会も失ってしまった。
今日もコックを抱けない。 ・・・コックを見て柔らかく笑うルフィに なにか苦いものを感じながら俺はチョッパーと街に降りた。
薬の材料を買いに店に入ったチョッパーを待って、店の前の路地でレンガの壁を背にして立っていた俺の脳裏に浮かぶのは、コックを背中から抱き締めるルフィの手に寄せられる 長袖のシャツを纏った白い手。
あの日 二人は何を話していたのだろうか。 二人の間に何か有ったんだろうか?
記憶を辿ってもそれ以上もそれ以下もわかりゃしねぇ。
気になって仕方ない反面。
俺には関係ぇねえんだから 二人が何やってようがいいとも思う。 なのに気になるんだ。
─── 元々腹いせに抱いただけで。
───コックは、誰のモンでもねぇ。 ・・・俺のモンでもねぇ。
思考に割って入ってきた甲高い笑い声のする裏通りに目をやると 厚化粧の女が目に入った。 深いスリットの入ったタイトな服を着た女。
・・・・・・・・・・・・・・・・・そうだ、 別にコックじゃなくていいんじゃねぇか。 抜けりゃぁ。 抱けりゃぁいい。 何を俺はコックに固執していたんだ?
折角陸に上がったんだ。 女の柔らかい肌を抱きゃぁいい。
ここは規模の大きい港だから 娼館があるだろう。 そこへ行きゃいいんだ。
店から出てきたチョッパーに 明日船に戻るからと別行動を告げる。 刀を研ぎに行くと言ったら何の疑いも持たずに船に帰っていった。
スプリングの軋む安物のベットの上で 赤い口紅の娼婦が豊満な胸を揺らす。
細い首から繋がるとがった顎を仰け反らせ 俺の上で跳ねる。
チョッパーと別れた後、俺はその足で女を探した。 娼館に辿り着くにはちょいと時間は掛かったが、どうせ帰るのは夜が明けてからだ。 日の暮れ始めた今からなら、時間も有り余っている。 具合がよければ、数回抱いてそのまま宿で過ごすつもりでいた。
・・・だが。 嬌声を上げて喘ぐ女を俺は冷めた目で見ていた。
しなやかな細い足を両肩に押し上げ 潤いの溢れる柔らかに締め付ける女のその場所に打ち込んでも 満たされなかった。
やがて、「もうやる気が起きねぇ。」 と言った俺に プライドを傷付けられたらしい女が 俺のものを下腹に咥え込み、上に跨って腰を揺らし 見せ付けるように胸を突き出す。 欲望に俺の性器は勃つものの、頭はどこか興冷めしていた。
「・・・・・・・・・違う。 こんなんじゃねぇ。」
「え?!・・。」
額に汗を光らせた女が、口をだらしなく開いたまま俺を見下ろした。
「・・・あ・・あぁん。・・んぁ。 ・は・・あ。」
女の細い腰を両手で掴むと持ち上げて 上下に揺する。
・・・・・・・・・早く終わっちまえ。
腰を突き上げながら 片手を女の茂みに差し込むと敏感な花芯を指で押した。
射精するのと同時に倒れるように俺の上に落ちてきた女が 俺の顔を両手で掴むと唇を寄せてくる。
「やめろ!」
俺は女の唇から逃れるとベットから下りて服を身に付け。 ──シャワーも浴びないまま娼館を後にした。
どうにも満たされない気分のまま酒場に入ると、偶然にもナミと、ルフィ。
そして、コックがいた。
知らん振りをしてカウンターの隅に向かおうとした俺を 見つけたらしいナミが声を掛けてきて、俺は、溜め息を付くと同じテーブルに向かった。
「アンタ、刀研ぎに行ったって聞いてたけど、もう終わったのね。」
いつも通りの本数の刀に目をやって ナミはグラスに注がれた琥珀色の液体を飲み干した。
「・・・あぁ。」
元々刀なんぞ研ぎに出していないのだから 三本とも揃っていて当たり前なのだ。 なんとなくコックから俺の右が死角になるであろう向かい側に腰を下ろす。
「あたし達、船で夕飯済ませて飲みにきたんだけど・・・アンタは夕飯食べたの?」
「そういや、食ってねぇな。」
「全く・・。 少しはお腹に入れてからお酒飲みなさいよね。・・・いいわ。たまには奢ってあげる!」
席に着くなりジョッキを頼んだ俺にナミの小言が始まった。
「珍しいな。・・後で倍返ししろとか言わねぇだろうな。」
「言わないわよ。 実はさっきね、 ルフィとサンジくんがちょっと人助けしてね、お礼に貰ったのよ。」
余程上機嫌なのかウインクつきで胸元の札をちらりと見せるとナミは笑った。
「アンタにも見せたかったわぁ。 サンジくんとルフィ。 すっごく息が合って、あっという間に決着つけちゃった。 二人ともカッコよかったのよ。 ・・・何よりお礼が半端じゃなかったし。」
「じゃ、ご馳走になる。」
夕飯を済ませたにもかかわらず目の前に大きな肉を置いたルフィが、
「飯頼むんなら俺の分もな。」
そう言って、又笑った。
「さ、そろそろ戻りましょ!?」
言葉を残し会計にナミが席を立つ。
その時になって、今日初めてコックと目が合った。 暫くじっと見詰めた。 コックも目を逸らさなかった。 蒼い目のその表情からは何も読み取れない。
どれ位そうしていたのか、会計を終えたナミが戻ってくると 小便と騒ぐルフィを連れてコックがトイレに立った。
二人になった途端。 最近あまり聞くことの無かった
「サンジくんと付き合っちゃいなさいよ!」
と言うナミの台詞を聞いた。
「放っとくと ルフィに取られちゃうわよ。 あの二人、アンタとサンジくんなんかより気が合うんだから。」
──取られる? 俺のモンでもないのに?!
「クソコックが、ルフィと付き合おうが、誰と付き合おうが、俺には関係ぇねぇ。勝手にすればいい。」
「・・アンタ・・・・・・・あ、サンジくん。」
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