今宵会いましょう





 食事処 「風車」 はいつでも沢山の客で賑わっている。
味は勿論言うことこの上ないが、純粋に美味い飯目当てに来る客と同じくらい、そこで働く従業員を目当てに来る者も後をたたない。 

この店は、女将のナミ、その姉のノジコ、板場のサンジ、その三人で賄っている。
気は強いが最近一段と美しくなったと評判のナミや、気丈なノジコ狙いが多数を占めていると思われがちだが、密かに調理場のサンジ目当ての客が意外なほど多いのだ。
 店が忙しい時など、手際のいいサンジが調理場から直接膳を客の所へ運ぶことがあり、たまに見られるそんな姿を楽しみにわざと込み合う時間帯にくる客もいて 意味ありげな視線を送るのだが……当のサンジはそれに気付いてはいない。


  今日も普通の一膳飯屋には不釣り合いな数の若い女性客達に 異常なほどの愛想を振りまき店内に出るサンジは、その度視線を送る男達には 興味なさげなぞんざいな態度で接している。
 それで、商売が成り立つのが不思議なところだが、サンジ目当ての男達は、そんなつれない態度さえも恋心を煽っているらしい。
 最も態度は悪くても、店に来たときの顔を見て客の状況を推測して膳を出す気の使いように絆されるらしい。
肉体が疲れているようなら 味噌汁をほんの少し濃いめにし、香の物を一切れ増やするとか、頭が疲れているようならようかんを一切れ添えて糖分を多めにするとか。
 男でも女でも、料理についてだけは平等なのだ。



「なぁサンジさん。 並木小路横の空き地に建った見せ物小屋に 大イタチがいるんだってよ、明日店休みだろ? 一緒に見にいかねぇか?」
 目の下にクマをつくった顔色の悪い男がサンジをさそう。
 このギンという男、顔色は悪いが、体調が悪いわけではない。 生まれつきの顔色だ。 そこに三泊眼と乱暴者ときているので、だいぶまわりから怖がられてはいるが、実は心根はいい奴だったりする。

「へぇ。 大イタチねぇ。」
 昼間のピークが過ぎたと見えて、キセルをふかしたサンジが常連客の言葉に耳を傾けると、待ってましたとばかりに声が掛かる。
「サンちゃん、ギンなんかじゃなく俺と一緒に。」
「いや、サンジさん俺がおごってやっから。」
「ちょい待て、サンジさんは俺と…。」
「それを言うなら オイラと長屋の向こうのろくろっ首を……。」
「はは。 大イタチにろくろっ首か。 そりゃすげぇな。 ……粗方、でっけえ板に血でも塗ってあんだろ!? 大イタチってのは。 ろくろっ首ってのは 作りもんの体に顔のっけて動かしてるとか……だろ?!  俺は、そんなの興味ね・・・ ぇ?  ・・・って、うわ!! おぃ ルフィ!」
「すっげぇ!! 大イタチにろくろっ首?! すぅっげぇぇぇっ! みてぇ!!」
 サンジがそれとなく話を終わらせようとしているところへ 丁度店に来た同心ルフィが、腕を伸ばして飛びついてくる。 
 無邪気なルフィに抱きつかれた所為で はだけた着物の下 せめてもの目隠しとばかりにサンジの肌を覆っている腹掛けが、 ずれ下からしっとりとした白い肌がちらりと見えて その場にいた男達がごくりとつばを飲み込んだ。
「ん? サンジいい匂いするなー♪ 肉煮込んだ匂いがする。」
 背中側から両手両足で巻きついたルフィが、料理の匂いの染み付いたサンジの服の匂いを嗅ぎ付ける。 くんくんと匂いを追って襟足に顔を寄せた。 まるで舐め回しそうな勢いにサンジが身を捩る。
「くすぐってぇ・・よ、コラ離れろルフィ。」
「あ、あぁ、親分さんずりぃ。」
「親分!! サンちゃんに何すんだ!」
「俺のサンジさんから離れろ。」
「誰だ!? どさくさに紛れて変な事言いやがるのは?」
「サンジさ〜〜ん。」



「ルフィ? あんたはもう! ・・何やってんのよ!」
「い。 いてててて。」
 騒ぎを聞きつけたナミが ルフィの耳を引っ張って騒ぎの中からつまみ出す。
 この二人。 特に付き合ってないようだが、見たところナミは満更でもなさそうだ。
 しかし肝心の親分が色恋よりも街で起こる事件に興味があるのは勿論、花より団子を地でいってるやつなので 食い気が勝ってしまい ナミの気持ちなんかどこ向く風、気付きやしない。

 摘み出されたルフィを空いた席に押し込むと、ナミはそのついでとばかりに
「はいはい。食べ終わったお客さんは席空けてねぇ。 いつまでも居られちゃ営業妨害よ! ・・・っと、そこのあんたとあんた! 会計がまだよ、ちゃんと支払って頂戴!」
 邪魔な常連客をいつものように追い帰すと、ナミは他より一回り大きな皿に本日の定食の残りをどんと乗せ 親分の前に置く。 昼の喧騒が過ぎた店内で、むしゃむしゃと音をたて食べるその前席に 自分のお茶を手にして大きなため息をついたナミが座る。
「まぁったく。 あんたってばいつでも騒ぎの中にいるんだから・・。」
「あ”? ばび。 ばびもおおいだでぃびだいのが?」
「は??? 何? 口の中に物が入ったまま喋らない!・・・ってもあんたにゃ無理か・・。」
 口の中のものを音を立てて租借したルフィ。
「ナミも大いたち見たかったのか? 一緒に行くか?」
「え///? べ、別にそんなもの見たか無いわよ。 だまされに行くって分かってるのにお金なんか払いたくないわよ。」
「そ〜か〜? 面白そうじゃん。」
「面白そう って、・・・あんた。 取り締まんなくていいの?」
「いいんじゃね!? 別に誰も困ってねぇし。」
 いしししし。 と歯を剥き出してルフィは笑う。





「こんにちは。」
「・・・・・・・。」
 黒髪の美しい長身の女性と並んで 目深に被った菅笠の縁に指を添えて軽く頭を下げた僧が暖簾をくぐり、調理場差し向かいに設置された長机に向かって一つ空けて席に着いた。
「ロビンちゃんvv いらっしゃい。 今日も綺麗だね〜♪ なにをご所望かな?」
「甘いものを ひとつもらえるかしら。」
「承知しました。 一寸お待ちを・・。」
「こちらのお坊様にも差し上げて。 私からのお布施代わりに。」

 調理場と店内を仕切る格子の向こうで、金色が揺れる。 直射日光の入らない薄暗い店内でも鈍く光るそれを揺らして サンジが季節の甘味を盛り付ける。
「お待たせしました、どうぞv」 
 盆を置く瞬間に黒髪の女性・・・ロビンの手から、隠すように差し出された小さく折りたたんだ文をサンジは受け取った。
 同じように僧の前に盆を置き、次いで湯飲みを差しだすと それを受け取ろうとする大きな手が板前の手に触れた。 それまで関心のある素振りさえ見せなかった僧がサンジを見上げる。
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
 菅笠からみえる唇が。 声を出さずに 「夜半に」 と言った。












「この生臭坊主! うちの店きたときくれぇ菅笠脱ぎやがれ。 そのうち禿げッぞ?」
「あぁ? 生臭坊主言うな、本物の坊主じゃねぇんだから・・。」

 孤児だった二人は、何の因果か普通の(?)僧と町人として生きながら、裏の顔として 制裁屋稼業に足を踏み入れていたりするのだ。
 特に緑髪の男は昼間僧の身なりをしているが、実際は剣の修行を日がな一日やっている。 ただそれでは周囲に目立つのと収入が見込めないため 僧の姿をしているのだ。
 最近ではその姿もだいぶ板に付いて 通りすがりの人間などは道端に佇む彼を托鉢の僧として手を合わせて拝んだり布施をしていくのが自然となった。
 一度、サンジが通りかかった市井の小路のこれまた小さな店と店の間で この僧が手に金剛棒を片手に菅笠を目深に被り立つ、その前で老女が経を唱えながら何度もお辞儀をしていた。 じっと動かないその僧は神妙にしていたのではなく、実は老婆を前にどうしてよいか分からず動けなかったというのを、傘から少し覗いた唇が戦慄くのを見て取り、サンジは通りすがりに密かに笑った事もある。


 ウソップの女房が経営する宿屋の離れで 緑髪の男と 食事処風車の板前サンジが会うのは今に始まったことではない。 
 宿屋の広い庭の奥に離れてひっそりと建つこの部屋は 竹垣と季節ごとに目を楽しませる木々に囲まれその存在はごく一部の人間にしか知られていない。 稼業の情報交換や打ち合わせに使うのは勿論・・・人目を憚る逢瀬に二人はここを使う。
 昼間風車に来たロビンは裏の仕事の仲間であり連絡役だ。
 権力や金にものを言わせ圧力を翳し 表では正当に裁かれる事のない醜い犯罪者を 制裁するのが裏の仕事だ。
「今回は、回船問屋の女中3人がそろって帰宅途中に襲われた件だ。 辻斬りや賊の仕業なんかじゃなくて、抜け荷のからくりに気づいて殺されちまったようだぜ。」
「悪い事やって それを隠すために更なる犯罪を犯すたぁ、ふてぇ野郎だな。」
「あぁ、殺された中には再来月初子が産まれる妊婦もいたそうだぜ。 不審を抱いて奉行所に駆け込んだ女中の亭主も数日後に殺されている。」
「ゾロ・・そりゃぁ本当か!? ッたく、酷い事をしやがる・・・。」
 差し向かいで サンジの持ち込んだ料理に舌鼓を打ちながら ゾロと呼ばれた男が お猪口の酒を一気に飲み干して外の月明かりに目をやった。
 「じき春だってのに・・・まだ、固いな。」
 木戸と障子の開け放たれた離れからは、庭先の梅の枝が地を這うように広がって見事な木姿を見ることが出来る。 月に照らされた臥竜梅のそのつぼみは膨らんでいるもののまだ固く、開く様子は見られない。 
「じき咲くさ。───寒いから閉めるぞ。」
 つい と、立ち上がると木戸を閉め 磨かれて光る板間と部屋の境の障子を引いてサンジが ゾロの隣に腰を下ろした。
 昼とは違う着流しの、肌蹴た裾を直そうともせずに片膝を立てて座るその相手を やはり着流し姿のゾロが見やる。
「ホントはよぉ。 もっと暖ったけぇもん食わしてやりたいんだがなぁ。 今度はカヤちゃんに七輪でも借りとけよ? 鍋でもやろうぜ。」
 サンジに舐めるような視線を這わしてから それを重箱に移すと、甘辛く煮付けた椎茸をゾロは口に運ぶ。 何も言わないゾロの租借する口元が僅かに弓なりに上がる。
 それを満足げにみながらサンジも注がれた酒を喉に流し込んだ。

 幾度目かの杯を空にする頃には、重箱の中もすっかり隙間だらけになった。
「明日。 回船問屋の主人と手代をやる。 ・・それと町奉行所の与力クロコダイルだ。」
 隣にだらしなく座るサンジの肩を引き寄せてゾロが金の頭に呟いた。
「クロコダイル? 麦わらの親分とこの奉行・・赤髪のシャンクスと そりが合わないって言ってた与力だな。」
 肩に後頭部を預けたサンジの声が低く響く。 ゾロはサンジの肩に置いた手を滑らせて項を通り髪の中に指を差し込んで撫でた。 首筋の生え際を撫でられてサンジが身を竦める。
「奴が件に絡んでるらしい。・・・・阿片窟にもな。 ・・・・・・・・麦わらねぇ・・今日も店に来てた奴だろ? 奴とは話した事ねぇから知らねぇが・・・。」
 酒臭い息が掛かるのも気にせずゾロの方を振り仰いだサンジの目元は、酒の酔いか 違う熱が宿ったのか・・・うっすらと赤く色づいている。
「悪い奴じゃねぇよ!? 先だってから親分がナミさん所に来ちゃ浮かない顔してたのはそれだったんだな。・・・同心のルフィには 与力にゃよっぽどの事がねぇと手は出せねぇからなぁ・・・。」
 上がったその顎に手を添えて 呟きを飲み込むように唇をふさいだ。 ゾロの良く知らない他の男の事を吐き出す柔らかい唇をねっとりと舐め取ると、待っていたように開かれた口内に舌を差し込んだ。 
 ゾロの舌が 所狭しと口内を蹂躙する。 角度を変えながら絡み合う舌がいやらしい水音を立てるのが静寂になれた耳に響き余計に体に火をつける。 
 互いの髪に指を絡めながら 息を奪うような口付けをした。
「・・・ん・・。」
 苦しげに頭を振るサンジの口を開放すると、ゾロはそのまま首筋へと舌を這わせ 歯を立てないように食み吸い上げた。 首筋から耳へとそれを何度も繰り返す。
「クロコダイルは、月に二回 決まった日に例の回船問屋に行く。 明日がその日だ。 」
 耳の中にゾロの低い声を囁かれ サンジが熱のこもった息を小さく吐いた。
 その着流しの帯の下、サンジの下半身の布が まだ触れてもいないのに僅かに膨らみはじめたのを見て ゾロは、悪戯するようにサンジの耳に舌を這わす。 間近に聞こえる水音に脳まで犯されてしまいそうで、思わず声が漏れる。
「ぁ・・・・っ。 ・・ん。  一緒の所を殺るの・・か?」
「あぁ。 クロコダイルは夕刻人並みにまぎれて店に行き 帰宅するのは夜半過ぎだ。 クロコダイル邸の女中の話じゃ・・・酒を飲んで大層ご機嫌に帰宅するって話だ。 」
 首筋で喋りながら ゾロの手がサンジの体の線を撫で降りていく。
 乱れた着流しの割れた裾から手を入れるとそのまま太ももを撫で上げる。
「てめぇ・・・。 ・・・その女中に どう・・・やって訊いた?」
 熱に潤んだ目で睨む様に問うサンジの顔を見ながら 緩んだ襟元に口を寄せた。
「・・・さぁな。 さすがに与力の家で働く女だ、口は堅かったぜ!?・・・・女に聞くには、・・・・・やさしくすんのが一番だって お前が言ってたんだろ。」
 鎖骨に唇を這わしながら、わざと低く笑みを含んだ声を出し、着流しの下の手を内ももに滑らせる。 サンジの白い喉が反りかえった。
「てめ・・っ・・。 クソっ。」
 何をどう誤解したのか、される一方だったサンジがゾロの頭に手を伸ばし 乱暴に唇を重ねてくる。
何度もゾロの舌を吸い絡めとった後 ゾロを畳に倒しその上に身をのりだしたサンジが、ゾロの着物の袷を開いてその胸に顔を寄せた。 
 まだ、こんな稼業に手を染める前、 ガキの頃に付けられたゾロの胸を走る袈裟懸けの傷を愛しげに指でなぞると サンジはそこをぺろりと舐めた。
 傷を舐めるサンジの姿はどこか淫靡でゾロの欲を煽るには充分で。 
「・・・っ明日は満月だ。 ちゃんと隠して来いよ。」
 ゾロは蝋燭の揺れる明かりにも光る 金の髪をくしゃりと撫でると、体を入れ替えサンジの体を下にしてお返しとばかりに 襟の袷を開き膨らみのない白い胸に手を這わせた。
「それ・・ぐらい・・・・承知して・・るよ、 クソ坊さ・・・・・・ん・・ぁ。」
 撫でるように動く手が 指が、胸の飾りを狙って蠢く。 誘うように色ずく飾りを舌で転がすと体がびくんと跳ねる。 
「・・・亥の刻に いつものところだ。・・・来れるか?」
 飾りを嬲りながら 空いた手で着流しの帯を取ると着物を肌蹴、白い肌に手を伸ばした。 その肌よりも白い褌の中心が濡れて色が変わっているのが見て取れる。 窮屈そうなそこを布の上から撫でるとサンジの体が反応する。
「んっ。・・明日は休み、だから・・・・・仕込みを早め・・・にすりゃ・・・どうにか・・・な・・る。  ・・・ってか、す・・るさ。  ・・・・・てめぇはこの・・・暴れん棒・・・どうにか・・しろ。」
 荒い息でたどたどしく返事しながら、サンジはゾロの体に手を伸ばす。 同じように帯を外すとゾロの股間に手を伸ばした。 そこはすっかり猛って布の向こうではちきれんばかりに存在を主張している。
「・・・仕方ねぇだろ。・・・・ テメェが欲しくて堪らねぇ・・・んだからよ。」
「・・・はっ、・・・嘘くせぇ・・。」
 掠れた笑い声を立てるサンジの褌を外すと 勃ちきったそこを握り上下に扱く。 途端に仰け反った首筋に噛み付くようなキスをくれてやった。
「クロ・・コダイルの・・・ぁん・・・・女中とし・・・たんだろ。」
「してねぇよ。」
「・・・どうだか・・・・・・ンはぁ。」
「そろそろ黙ってろ。」
 サンジの嫉妬の混ざったような物言いにさえ煽られて ゾロは添えた手の動きを早くする。
 限界が近くなったサンジの男根を一度開放すると 欲に濡れた蒼い瞳が 『早く』 と言うようにゾロを見上げてきた。 そんな仕草にゾロのそれもどんと質量を増した。
 手早く自分の褌を外し、座布団の下に隠しておいた薬袋の中身を口に含む。 それを自分の唾液とよく混ぜると手のひらに吐き出した。
 ぬるりとした その薬剤 「通和散」 をサンジの後孔に塗りこみ ゆっくりと指を埋める。 その顔は不快感はあるものの薬のおかげで痛みは無いようだ。 指を増やし弾む息に 喘ぎの声が混ざりだしたところで ゾロは指を抜いて、自身を突き入れた。










 気をなくしたサンジの体に隣の部屋から持ってきた布団をかけてやり、自分は着物を肩にかけると ゾロは酒をあおった。
 あの後・・・一度果てて横になった後 座った後ろから抱き付いてきて やけにやる気満々な素振りを見せたサンジにすっかり煽られて かなり羽目を外した。
 何度目かの白濁を放った後、崩れるように倒れたサンジの背を抱いてそっと床に寝かせたのだ。
(・・・・・・・・・・・・・・・明日・・・・いや、今夜半には、仕事があるってのに無理させちまった。)
 事、サンジに限っては 時折歯止めが利かなくなる自分に 修行が足りねぇな と口元を歪めてゾロは声を立てずに笑った。


 火鉢の縁にサンジが置いたキセルに火をつけて ゾロは深く吸う。
「はぁ・・・。 うまくもねぇ。 何でこんなもん吸ってやがんだ、こいつは。」
 苦味のあるその煙の感想を漏らしながら、それでもこれを吸うサンジを見るのは悪くないと思う自分に 苦笑いの入った溜息をついた。 こんな些細なことで 自分は本気でサンジに惚れてしまっていると改めて思うのだ。
 昼間、風車に入る前に 店先からサンジに抱きつく麦わらが見えた。 それだけでもムカついたのに それがサンジの項に顔を寄せるのを見て無性に腹が立った。
 そんな事をする麦わらに。 そんな事をさせているサンジに。
 はらわたが煮えくり返るようで、 でも。 そんな自分を狭量に感じ、みっともなくて顔を上げれなかった。 ・・僧の装束の菅笠に今日ほど感謝したことは無い。 



「何溜息ついてんだよ。 クソ坊主。」
 後ろから伸びてくる指に キセルを奪われてゾロは振り返る。
 身を起こし髪で隠れたその下で キセルを銜えたサンジがいた。
「クソ坊主め・・・背中に爪の後がついてんぞ。 ・・・ボケ。」
「???」
「ばっくれても しっかり後が残ってるぞ・・・ほらここ。」
 言いながらサンジが肩口を爪で引っかく。 その場所は確かにひりひりと傷の所在をゾロに知らせた。
 だが、正直そんな事 身に覚えが無いのも確かで。
「テメェじゃねぇのか? 」
「お・・・俺はそんなもんつけねぇよ。 ・・・ったく。  お盛んだねぇ。」
 視線をこちらに向けようとしないサンジの顔が見たかった。
 俯いたまま上げようとしないサンジの顎を捉えるとゾロは 力を入れて自分の方を向かせた。 サンジの目は金の下で閉じられたままだ。
「俺がお前以外を抱くと思うのか?」
「──抱く、だろ。」
 人の事を断定するように言ったその唇が、ぐっと歪んだ。
「俺は・・・・テメェ以外興味ねぇ。」
「はっ、口じゃんな事言っても 背中に残った傷が証明してるぜ?  ・・・いいぜ!? お前も男なんだしな。 俺もお前なんかより女性の方がいいし? ・・気持ちは分かるさ。 別に・・・隠さなくてもいいんだぜ。」
 言葉をつむいだ唇が、詰めていた息をそっと吐く。 そんなサンジが何故か儚く見えた。

 どれ位そうしていたのか・・揺れた金の中から蒼い目がようやくゾロを見た。 手の中から抜け出して口端を上げてニヤリと笑うサンジは、もういつものサンジだ。
 何か言いたげなのにそれを飲み込んで日常に戻るサンジを見るのは、もう何度目か。 ゾロの気持ちだって知っている筈なのに、何がそんなに不安にさせるのか。
 自分はこんなに惚れてると言うのに・・。
 それを受け止めるほどの度量が無いと思われているのだろうか。
 (俺にくらい、テメェの気持ち吐き出せよ。)
 その度に大抵の事には動じないはずのゾロの胸はちくちくと痛む。
「好きなだけ痕を残せばいい。」
「・・・は?」
「テメェ以外の痕は要らねぇ。」
 サンジが先ほど触れた場所に手を運び、爪を立てて皮膚を抉った。 ちりちりと肩口が痛む。──この痛みに (そういえば・・・) と思い当たる記憶が蘇った。 
(こんなものに・・・・なんてバカで ・・・なんて愛しい奴なんだ。)
「ばっ・・・・馬鹿!! 何して・・!」
 慌てて伸ばしてくるサンジのその手を掴まえた。
「テメェだけだ。」
 掴まえて抱き込んだ。
「・・・・・・。」
「テメェの男を信用しろ。」
「てめぇ・・・背中! 傷付いちまったじゃねぇか。」
 ゾロの爪に付いた皮膚と血にサンジの顔が引きつった。 
「構わねぇ。 俺が付けたくねぇのは刀傷だけだ。 テメェの痕なら幾つ付けても構わねぇ。」
 見開いた蒼い目が左右に揺れて サンジの眉根が寄せられる。 
(なんて情けない顔してやがる。) それでも、そんなサンジさえ 愛しい とゾロは思う。
 自分が 嫉妬したように、サンジもきっと嫉妬したのだ。 背中から見て気付いた傷に ありもしない女中との行為を想像したに違いない。
 自分だって サンジの気持ちを分かっていて それでも勝手に張り付く麦わらに嫉妬したんだ。 サンジが同じように不安になるのも当たり前かもしれない。 
(かわいいじゃねぇか、こんちくしょう。)
 男相手にこみ上げる愛しさに ゾロはサンジをぎゅっと抱きしめる。
「放せよ・・・。  クソ暑苦しい。」
 腕の中から聞こえる小さな声を無視して ゾロはサンジを抱きしめた。












「やさしくしたぜ? 坊さんに 『悪いもんが憑いてる』 って言われりゃ誰でも不安になるよな。 んで、適当に経を詠んで ちっと脅して 優し〜く あしらってやったら クロコダイルの事でもなんでもぺらぺらと話してくれたぜ!?」

「あ? あぁ。 ・・・テメェが勘違いしたアレな? ありゃ猫だ。 川ッぺりで寝てたら猫が流れてきてよ。・・・ホントだよ、嘘じゃねぇ。 多分細い傷で隙間が小さかったろ? 助けた猫が肩で爪立てたの引っぱっておろしたからな。 それだろ。 ・・・普通んな傷 間違えやしねぇよな。」

 一寝して謎解きをしてやったら、勘違いに気付いたらしいサンジに蹴り飛ばされた。 逆ギレすんなよと半ば呆れながらゾロはぶつけた腰を擦る。
 蹴りを繰り出したサンジはそっぽを向いたまま木戸を開けた。
 入ってくる眩しい光にゾロは思わず目を細める。 
「おい。 梅の花が開いてる。」
 弾んだその声に目をやれば 硬く閉じていた蕾が嘘のようにふっくらと開いた数個の花と その手前に佇むサンジの後姿。 その耳たぶと項が赤くなっているのが見て取れてゾロは小さく笑った。
















今更・・・時代劇設定だったり;
うーん。 挑発的な二人書きたかったのに ただの甘々になったような(笑)
梅の季節に生まれたサンちゃん、おめでとうv (祝ってんのか?コレ;)

サン誕企画『ちふれ』管理人ズ様から楽しいコメント付けて貰いました////
良かったらこちらから覗いてみてください