魚の形をした派手な船には、来店客は引っ切り無しにあっても 荒くれ者のコック以外の人間は なかなか居付く事はない。 気の荒いコックの掃き溜めのようなこのレストランには 接客と給仕の役職の人間が足りないのだ。
厨房を一通りこなせる様になった頃、ウエイターをやれと言われた。 他のコック達も手の空いた者が交代でこなしていたし、時間さえあれば変らず厨房でも 腕を振るえるとあって 俺は渋々という態を装いコック服を脱いで ウエイター服に着替えた。 まだ13だった俺は、それが少しだけ大人と認められたようで なんだかくすぐったいような気がしたのを覚えている。 以前いたウエイターは細身の人間しかいなかったのか 厳ついコック達にはサイズが合わなかったようだが、俺にはまだまだ大きくて。 広いフロアにウエイター服を着て立ち回るのは俺だけだ。
ウェイターをやってみると 厨房にいるだけでは気付かなかった事に気付く。 厨房とフロアの連携やタイミング。 食事を口にする客の表情。 いかにして帰っていくお客様の顔を満足した表情に出来るか。
それは料理の味は勿論 接客の仕方にもよることを知った。 海の上に浮かぶレストランには 上品な人間以外にもいろんな人間がやってくる。 言葉を理解しようとしない、場を乱す野蛮な方々には 早々に帰って頂く術も知った。
ウエイター服の袖を捲くらなくてもよくなった、そんな頃に俺はタバコを覚えた。 ジジィにしこたま煩く言われたが そんなの知ったこっちゃない。
味はそんなに美味いもんじゃなかったが このアイテム一つが俺を大人に見せてくれるようで、・・・手放せなかった。

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