いてぇ〜っ!!」
ナガッパナが磯場で悲鳴を上げたのを、何だ?どうした?と見に行けば その、長い鼻の先に赤いカニがぶら下がっていた。
「早くとってくれぇ〜」
と半べそなウソップをよく観れば、カニは小さなハサミを大きく広げ鼻の先に必死にしがみついている。
「こりゃ食えんのか?茹でたらもっと赤くなるか?」
顎に手をやり ウソップ(の先のカニ)をじっと見るコックには ウソップの叫びは耳に入らないようだ。
仕方がないのでゾロは涙目のウソップの鼻をカニから解放してやった。
そしてそれをコックの目前に
「ほらよ。」
と放るとコックは条件反射なのか手を差し出した。
思案顔だったコックの表情が瞬時に変る。
急に立ち上がったかと思えばタバコをかみ締める。
恐る恐る持ち上げたその指の先には件のカニがしがみ付いていた。
「このクソカニ!」 
言葉とは裏腹に コックはそっとカニをはずすと、目前に持ち上げ
「ちいせぇなぁ。これじゃ食うとこねぇよ」
そう言ってカニを潮溜りに放した。
すぐにカニは岩陰の窪みに向い逃げていく。
「あぁっ。サンジ逃がすなよ。そのカニ俺が食うはずだったんだ。」
ウソップが鼻を大事そうに擦るのを見て 先程まで腹を抱えていた船長が 潮溜りを覗く。
そんな船長の背中に コックは軽く蹴りを入れると声を掛けた。
「ルフィ、昼飯は骨付き肉の予定だったけどよ、てめぇはそのちっぽけなカニの方が食いたいんだな。・・・ラッキーだな、そのカニでいいんなら 昨日仕入れた肉、保存に廻せるな。」 途中から独り言のようになった呟きに 途端に目を輝かせ 振り向いた船長の口元から 涎が垂れるのをゾロは見た。
「うめぇな、この肉!!」
そう言いながら 船長が齧り付いたのは、何個目の肉なのか。
船に戻って着替えたコックは、ようやく一息ついたのか 未だ食事を続ける船長から離れ 一服を始めるのが、視界の端に見えた。
「なぁ。」
小さな声と腹巻を引っ張る気配に隣を見ると チョッパーが俺を見上げている。
「なぁ、・・・あの蟹の腹に付いてたの何なんだ?」
「なんか付いてたか?」
「うん、ちっちゃい粒々がいっぱい。ゾロ見なかったのか?」
「あぁ。・・そうか、そりゃきっと蟹の外子だな。 産卵期なんだろうよ」
「ふ〜ん。じゃァ、あの蟹卵産むんだ。 あんなに沢山、すげぇなぁ。」
「さぁ、どうだろうな?」
「・・サンジきっとそれで逃がしてやったんだ。 だって昨日一緒に市場行った時、あの蟹売ってるのサンジと見たもん。 数が少なくて貴重だからってスゲェ高かった。」
ぴょこんと立ち上がると、うんうんと一人頷きながらチョッパーは、コックの元に走っていく。
は? あのコックが? 知ってて食材を逃すかよ。
背中に飛びついたチョッパーの勢いで、コックの体が船縁で揺れる。
小さく笑いながら 船医を背中からべリべりと引っ剥がすと コックは自分の前に降ろす。
チョッパーの前にしゃがんだコックの耳元に チョッパーが何事か喋ると、コックの顔がクルクルと変る。
え?と言うように目を開き、ふるふると頭を振りながら 悪戯がばれて照れたガキのように ほんのり赤くなる。
やがて口元に人差し指を一本あてると、2人は悪戯を共有するように笑った。
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