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天気のいい日には船尾に立つ。 残り物の出ない船の、それでもおこぼれに預かろうと寄って来る鳥達に 少しだけの分け前を振舞う。 船に余裕のある時に限られるが、サンジは船尾で鳥と戯れる。 付かず離れず併走する鳥達は 時に舞い飛び、時に舞い降り、肩口を掠める様に飛ぶ。 自由に青い空を飛ぶ鳥達は、時折マストで羽を休め 見張り台に立つ者を和ませ、数日を共に併走すると やがて目的の地を目指して飛んで行く。 あの小さな体のどこに そんな力が隠されているのかと思う程 遠い島を目指して飛行を続ける為に。 あの鳥は自分が何処に向かっているのか判っているのだろうか。 判らなくとも遺伝子に組み込まれた記憶を頼りに飛ぶのだろうか? ただ本能のままに飛ぶのだろうか ? 鳥達が別れを告げる頃 船尾で 過ぎた航路が波間に消えるのをタバコを吸いながら見た。 体の中に埋もれた記憶を辿る。 時折、軌跡を描いて水面を滑る あの頃の航海に思いを馳せる。 海に向かって切り立った高台から 青い海を見る時、海の真ん中に居るような錯覚に陥る事がある。 あの愛しい船を降りてから 揺れない大地に根を張るつもりで生きてきた。 なのに 気を緩めると思い出すのは、あの 波に軋み 風に揺れる船の事。 パン屑に飛びつき すぐ側を舞い飛ぶ鳥に ここがあの頃となんら変らないと錯覚させられる。 ここはあの船の上ではないのに。 鳥達が立ち寄るこの島に 立ち止まってしまった俺が居る。 次の島へと飛び去る鳥達を見送って 胸ポケットに手をやる自分に思わず苦笑がもれる。 長年の癖とは いつまで経っても抜けないものだ。 あれからタバコは止めたというのに。 あの愛しい船を 降りてから俺はタバコに手を出していない。 ・・あの船の匂いがする物は 置いてきた。 もって出たのは 料理人の命でもある包丁と最小限の荷物。 それは愛しい船に乗る男の事を思い出すのが怖かったから。 あいつと俺の間には 仲間という以外 何も無かった。 ただ同じ船に乗り合わせた仲間。 それだけだった。 それなのに少し色あせた記憶の中で あいつの顔もおぼろげになりつつあるというのに 俺は未だに忘れられないのだ。 あの頃の感情を。 持て余してしまって どうしようもなくなってしまった感情。 消化してしまわなくてはならない感情。 捨てなくてはならない感情。 時間の経った今でもそこだけは 時が止まったように鮮明なままで。 早く日常に埋もれてしまえばいいと思うのに 感情は色あせる事無く尚色鮮やかで・・。 もう会う事も無いであろうあいつへの感情とも 今ならもう少し上手く付き合っていけそうな気がする。 |
