素朴な島。 それが最初の印象だった。
 ログポースの指し示す航路の途中、さして大きくない島に立ち寄った。
 治安がいいことと ログが書き換えられる恐れが無い事を確認すると、メリー号は錨を降ろした。
 ナミは海図に載ってない島に興奮すると お手製の海図を引っ張り出して計算を始め・・やがて満足したのか 今夜は宿を取ると言い出した。
 治安がいいとは言え、そこはやはり海賊船であるメリーを放置する訳にはいかない。
 冒険に行くんだと騒ぐ船長を始め、買う物が有ると言う船医と修理屋狙撃手。
 たまには揺れない布団で寝たいと言う航海士と その横で微笑む考古学者。
 彼らを見送って 船に残っているのは 剣士である自分と 料理人の2人だ。
 昼間見た街の様子は どこか懐かしさを感じさせるもので、 自分の育った島とよく似ていた。
 自然が豊富で、それと共存するような素朴な集落、素朴な人達。

 だからかもしれない、こんなに饒舌になったのは。
 甲板にテーブルを引っ張り出し、コックと酒を飲みながら ゾロは自分の子供の頃の話をした。 
 普段喧嘩ばかりしている筈の相手は 何故か揚げ足も取らずに俺の話を聞いていた。
「いいなぁ、てめぇには故郷ってモンがちゃんとあるんだな。 俺に有るのは船と 何も無い岩場の記憶だけだ。」 コックはそう言って小さく笑った。
 イヤミ等ではない、心からそう思っている事が判る。 そんな素直な微笑み。

 甲板の上を風が通る。
 すぐ側で、さわさわと 茂った葉が風で揺れる。
 今メリー号が停泊しているのは 川を上った湖畔の木陰。 涼しい風が2人を通り抜けていく。
 その後は、2人黙って酒を飲んだ。 グラスが空くと 互いに注いで。
 
 どれだけそうしていただろうか。
 気付くと天上に昇る月が輝き始めていた。
 足元に転がるのは酒の空き瓶。 2人で飲んでいるとは言え かなりな酒量をのんだようだ。 

「あ。」 
 小さな声に、コックの視線の先を見る。
 と、小さな光がゆらゆらと立ち上り、消えた。
 そして、又一つ、又一つと数を増やし、消えては現れる。
 小さく光る 緑とも黄色とも言えない灯りが ゆらゆらと軌跡を残して飛び回る。
 どこか懐かしい 暖かい光り。
「ホタルだ。」
「ホタルって、さっき言ってた虫の事か?」 
 コックはすぐ側を飛び回る光りを目で追って
「虫って言っても 気持ち悪くねぇんだな、どっちかっつうと綺麗だ。」
 呂律の回らない口で そういって俺を見た。
 月の光りと 飛び交う暖かな光りの中に見えるコックは、酒が回っているのだろう。 
 蒼い瞳をトロリと潤ませ、白い肌を仄かに桜色に染めて俺を見ていた。
 先程、暑いといって肌蹴ていた首元も赤く色付いている。 
 いつも眩しくてウザイだけだと思っていた金の髪が、月を弾いて鈍く輝く。
 俺は、コックから眼が放せなかった。 
薄く開いたその唇も 深い海のような蒼も 俺を捕らえて放さない。
 やがて、酔いと眠気に勝てなかったのか コックはテーブルに突っ伏して眠ってしまった。
 コックの髪が俺の目の前で柔らかな光りと風に揺れる。
 蛍がとまった髪が所在を主張する様に光る。
 あの光りに触れてみたい、そう思った。 

 蛍が光を残して飛んだ。
 俺はそっと手を伸ばすとコックの髪に触れてみた。 
 初めて触るその感触に胸が高鳴る。
 目覚める気配の無い事を確認して 俺は金の髪を梳く。

 柔らかい金の髪は俺の手の中でも 月の光りを弾き、輝いていた。