サメ と アヒル







色鮮やかな水鉄砲と ぷかぷかと水に浮かぶボール。

ゼンマイ仕掛けの 鮫と黄色いアヒル。


青い空の下 洗濯用の大きなタライに張った水に浮かぶのは、子供のおもちゃ。






「おい、ノアそれよこせ。」
「いやだ!  チビナスこそ それかせよ。」
頬に丸みの残るあどけない子供が2人、タライの中で言い争っている。

手に持つのはゼンマイ仕掛けのおもちゃ。 歳は同じ位か………。
2人お揃いの水着を身に付けている。


「りょうほうつかって あそぶんだ。」
「おれもだ!」

「なァに喧嘩してんだ? この…クソチビ共!!」
声とは裏腹に 笑顔でタライの側に立った人影の 金色の髪が、さらりと風に揺れる。
「だってノアが…」
「…チビナスが…」
「じゃぁ、2人で一緒に遊べばいいだろ。」
「でもさ」 「でも…」
「でも、じゃないだろ」
マストの脇に置かれたタライの側でサンジが笑う。 それはふんわりと。

小さいながらも一人は睨み付けるように、もう一人はふてくされたように互いの手元を見ている。
俺が近づくと、その2人が 「おとうさん!!」 と言ってこちらに振り向いた。
向けられた視線は 碧かかった鳶色と海のような蒼。
伸ばされた小さな腕に俺は引っ張られて タライの中、膝までもない水に連れ込まれて 水鉄砲の洗礼をうけた。

きゃいきゃい とはしゃぐ子供の声と  ……紫煙の向こうで笑うのは 生意気なコック。

のんびりとした穏やかな時間。





やがて、遊び疲れたのか黄色い頭のチビナスと 緑色の髪のノアが、水着のまま 甲板に座る俺の横にちょこんと座った。

ゆっくりと後ろから近づいてきた足音が 背後で止まる。
「こら、ちゃんと着替えないと風邪引くぞ!」
ふわりと頭からかけられたバスタオルで大人しく体を拭き、着替えを済ませ
「おとーさんも ふきふきぃ♪」 と 俺の頭をさわさわとタオルで擦るのは、チビナス。
暴れ足りなかったのか、逃げ出し、サンジに追いかけられながら、がしがしと拭かれているのは、ノア。
暫くしてまだ青い尻を出したままのノアが サンジに抱えられて姿を現した。 どうやら逃げ切れなかったようだ。
「てめぇ、コイツに服着せとけよ。」
火の付いていないタバコを咥えたまま サンジが寄越したノアを俺は受け取った。











人を枕だと思ってやがる……
腹と太ももに頭を乗せて眠るチビ達の寝顔は、どこか俺達に似ていて。

見たことのないアイツの幼い頃の顔を映したようだと言うチビナスと 並んで眠る俺に似たノアを見て、胸がほんわかと温かくなる。
いつまでも見飽きない2人の重みに自分の幸せを実感し、守るべきものがあることに 思わず感謝したくなる。
守るべきのもがあるのは 夢への負担にしかならないと思っていた・・・。
それが、逆に自分を強くするものでもあるのだと、この愛しい者達の存在で初めて知ることになった。
そして、それを教えてくれる切欠となった男が今、キッチンの扉を開けてこちらへ来る。


「あれ? 2人とも寝ちまったのか…。」
トレーの上の小さなグラスには透明な光を弾くゼリーが入っている。 チビらにやるつもりだったんだろう……相変わらずマメな男だ。
「ルフィ達と遊んだ後で あんだけ騒いだんだ。 当分起きねぇだろうよ。」
ぽんぽんと軽く小さな頭に手をのせても 2人とも起きる気配はない。
「そーか、じゃコレ、チョッパーにでも食わせてやるか。」
そういってサンジはトレーを掲げてみせる。
「おやつがないと起きたら怒るぞ? こいつら てめぇのおやつ楽しみにしてるんだからよ。 んで、何でチョッパーなんだ?」
「さっきルフィに盗み食いされて 半分も食ってねぇからな ……それにこいつらがいるのは チョッパーのお陰なんだしよ。」
そう言われて、急に思い出した。
「そうだな、チョッパーの薬がなかったら こいつらいねぇんだな。」
そうだ、チョッパーの薬を飲んだサンジが2人を産んだのだ。
すやすやと眠る身体を愛しそうに撫で軽く微笑み 向こう側の甲板に消えて行くサンジの背中を見て 俺ももう一眠りするかと目を閉じた。




暫くして再び近付く足音に 浅い眠りから目が覚める。
「よぉ。 …てめぇまで寝ちまったのか?  お前ら三年寝太郎親子かよ。」
「まだ起きてる。」
片方だけ開けた寝ぼけ眼にグラスが映る。 先ほどトレーに載せられていた物とはちょっと違うグラスだ。 
「俺様特製、鍛錬バカの剣士用ドリンクだ。 飲むかクソ剣士?」
「飲みてぇ…けど眠てぇ。 起きれねぇ。」
「一度起きろよ………ったく、しょうがねぇ奴だな。」
眠気に負けて閉じた瞼の裏の 透ける光が陰ると、濡れた柔らかな物が唇に押し付けられ、冷たい舌でノックされる。唇を薄く開くと 液体が流れ込んできた。
「足りねぇ。」
何度か繰り返す度に唇が離れるまでの時間が長くなり。
「コレで、最後だ。」
合わさった唇から滑り込んできたのは氷の欠片。
互いを行き来する氷の冷たさと絡み合う舌の温かさに、サンジの後頭部にまわした手に力が篭もる。
ぴちゃぴちゃと聞えるいやらしい水音に痺れてしまいそうだ。
氷が消えてしまう頃には、ただ、互いの熱を探り合って 深く味わっていた。




「パパ………大好…き。」

突然耳に飛び込んできた小さな声に ガバッ!! と音を立てそうな勢いでサンジが身を起こし息を潜める。
声を発したノアはどうやら夢の中のようだ。
それを確認すると ふぅ、と小さく息を吐き
「俺も、お前らがクソ大好きだぞ。」
と、サンジは2人の頭を撫ぜる。 
そして 「眠い。」 と小さく呟くと
チビ達の居る反対側にサンジは寝転んだ。
「俺も、好きだぞ。」
何故だかどうしても言いたくなった。 だから言った。
「ガキにやきもちかよ////」
サンジは軽く脚で俺を小突きながら、それしか言わなかったけれど、俺はただ言いたくなっただけだからそれでいい。
キスの余韻に続きが出来ないのが残念だったが、右腕に乗るサンジの頭と  左の腹と足に感じる小さな体温と 穏やかな寝息に囲まれて、
まぁいいか・・ コレもなかなかいいもんだ と続きを諦めて俺は目を閉じた。





















「どっか〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん。」



無邪気な大きな声と 腹にとてつもない衝撃を受けて目が覚めた。
どうやら、ルフィが飛んできて当たったらしい。
不意打ちに 腹を押さえてハッとなった。

横に寝ていた、ちび共は??
隣で寝ていた筈の
「サンジ…は…?」


「うぉ…っ。なんなんだよ、キモいなてめぇ…。」
一拍、間が空いて、離れた所から驚いた声がする。
そちらに目をやると、黒いスーツに身を包んだサンジが、ナミ達のくつろぐデッキチェアの横で 目を丸くしてこちらを見ている。
なんだもう起きたんか……
あ? いつ着替えたんだ? さっきまでTシャツだっただろ。
あの黒いTシャツ お前によく似合ってたのによ。

が〜〜〜っ。 今はそんな事思い出してる時じゃねぇよ!!
 ……チビ達は? 
俺を枕にして寝てたじゃねぇか。 目を離して海にでも落ちたら大変だぞ。
「おぃ、サンジ。チビ達は?」
「…………」
面白ぇ、真っ赤になりやがった。
ん? その後ろで女共まで目を丸くしながら顔赤くしてやがる
なんでだ?
? ??
「サンジ? チビ達はどこいった? ……おい。」

相変わらず返事のないサンジは 首まで真っ赤にして固まっちまった。
ニヤニヤとした表情を浮かべるナミに小突かれて、我に返ったらしいサンジがぎくしゃくと動きだす。
「て……てめぇ、このクソマリモ…。 何言ってやがる! どこ行ったかって? ンなもん知らねぇよ 大体チビ達って何者だよ? 頭ン中カビ生えてんじゃねぇか。 寝すぎだコラァ。」
充分聞こえる距離なのに大声をだしハアハアと肩で息をするサンジの顔はまだ紅い。
「てめぇこそ、何言ってんだ。 あいつらは俺とてめぇの子供だろうが。」
なぁにムキになってんだか……………あ、又 固まってる。


「っ……あ〜〜〜っはっはっはっ、何? ゾロとサンジくんてそういう関係な訳ェ? 知らなかったわぁ♪ クククッ…お、おかぁさんはどっち? きゃぁ〜〜〜っはっはっは…」
腹を抱えながら大きく笑い出したナミが 物凄く楽しそうな顔をして俺達を交互に見る。
なにやらい〜やな感じだが、今はそんな事よりサンジだ。

「寝言は寝て言え〜っ!!」
ナミに気を取られている間にするりと近付いてきたサンジの靴の裏が目前に迫り、次の瞬間 俺の視界はブラックアウトした。












目を開けると、女共とコック、おまけにルフィ、ウソップ、チョッパーまでもが俺を覗き込んでいた。
「おい、ゾロ? 意識しっかりしてるか?」
チョッパーが脈をはかったり、俺の目にライトを当てたりしながら聞いてくる。
「……………あぁ。」
取り囲む顔の中のコックは、チビ達と一緒に笑っていた顔より若干若くみえる、よく見知った顔。
普段から見慣れた顔だ。 
あぁ、……………ありゃ夢だったのか。
思い返せばあのサンジは今より髪も若干長く、Tシャツからのぞく右腕に傷跡があったのだ。
コックにそんな傷なんて無い。


…夢だったんだ。
あの幸せを感じた小さな二つの温かさと重みも…夢。

それならばさっきの反応も分からないこともないか…、
でも、真っ赤になって怒りながらも どこか嬉しそうな顔してたな、あいつ。
それはたぶん、----俺がまだコックの名前を呼んだ事が無かったから…。
コトの最中でさえ、一度も。




しかし未だこの手に、この腕に、…チビ達の小さな手の感触も残っているというのに…。
夢と片付けてしまうにはリアル過ぎて。

あれが未来ではないのかと推測するのが一番ストンとくる。
有り得ないことだけど…な……。
可愛かったよなあいつ等、チビ達見て笑っていたサンジも…どこか穏やかだった。



「ゾロ?」
覗き込むチョッパーを見て ふと夢の中の台詞が甦る。

『チョッパーの薬のおかげ』

……仮にあれが未来なのだとしたら…


「チョッパー!!頼みがある!!」









それから暫くの間。
逃げ回るチョッパーを追いかけ回し、両手を擦りあわせて跪く、大剣豪(予定)の姿が船の至る所で目撃される事となる。
それと共にそれまで知られる事のなかったサンジとゾロの関係は、賛否両論の中とりあえずクルー公認となった。














「お前、昼間のアレ、寝ぼけ過ぎだ。 毎日毎日暇さえありゃ寝てばっかだから 脳が寝腐れちまったんじゃねぇか? ん? 何 人の顔見て笑ってやがる。 なんか今日のてめぇいつもに輪を掛けてクソムカつくぜ。 それとチョッパー追っかけ回して可哀想じゃねぇか。 何言ったんだか知らねぇが、チョッパーあれから 『無理だ、無理だ。』 って涙目で歩いてたぞ」

未来ではないかと間違えてしまいそうな夢を見た日の夜。
後部甲板の上、持ってきた酒瓶を寄越しながらサンジが言う。
「あぁ、悪かったな。 やけにリアルな夢見ちまってよ…。」
「?」
サンジが何をだ? と、視線で聞いてくる。
「年取った俺達に子供がいるんだ 。二人も。」
「はぁ?」
「いい夢だった。」
「もしもし、ロロノアさん? 俺達って俺とあんた?‥‥‥2人とも男なんですけど…」
「夢だからな。 何でも有り‥だろ。」
「はぁ。」
「可愛いガキらと、てめぇが側にいる幸せな夢だった。」
「ち、ちょっと待て! 将来一緒にいる夢見るほど、ちゃんと付き合ってんのか俺達?」
「当たり前だろ。 俺ァ、何があってもてめぇを手放すつもりはねぇ。 てめぇは違うのか?」
「あ‥‥‥だっ‥‥てめぇ言わねぇじゃねぇか‥‥あの、‥その‥‥‥‥あれだ///。‥‥‥好きだ、とか何も。 だから俺ァ、  てっきり船の上での処理かと‥‥‥。」
「好きだ。 好きじゃなきゃ男なんて抱かねぇよ、面倒くせぇ。 サンジ、てめぇはどうなんだ? 俺の事どう思ってる?」
「嫌‥‥‥い‥じゃねぇよ。 好きでなきゃ男になんて触れる気もねぇ。」
「じゃ いいじゃねぇか‥‥‥。 それにしても もうちっとあいつ等と‥‥ノアとチビナスと一緒に居たかったな。」
「あ////‥アホクソマリモ。 チビナス言うなぁ!!」

握った小さな手の感触がない事を寂しく思いながらも、
月明かりの下、真っ赤になって蹴りを繰り出すサンジを見て、俺は酷く満たされていた。













え?‥‥‥END?

な・・・・何だコレ? こんなん有り?
突っ込みどころたんまりと用意しました(汗)
でも、でもね とっても楽しかった。(⌒∇⌒)
見たいなんて方いないでしょうが(汗) 機会があったら彼らの続き書いてみたい気もします。
あ、 『夏部屋感謝&いつの間にか8000HIT越えていた記念;』 と言う事で