その特別な一日 <1>




「重い・・・。 重いんだよ、このクソッタレ野郎。 早くどきやがれ!! ・・・・あ!ロビフラワンちゃんはずーーーーーーっと乗ってていいからねぇ〜〜♪ ってか、むしろ降りないでvv」

 ウソダバ団のアジトに乗り込んできた (正確には連れてこられた) チョッパーマンに遊び半分で操られたちょーでっかいマシーン ルフィボンバーにはじき飛ばされた三悪人は、サンジロプスを下敷きに 重なるように倒れていた。
 冒頭の台詞は一番下敷きになったサンジロプスのものである。


「あら、あたしがどかないと怪人さんも降りれなくってよ?」
 そう言って 突如出現した沢山の手を使うとロビフラワンは身を起こし、二人の上からひらりと降りた。
「あぁあん! 降りちゃうのォ? 厳ついおにぎり野郎なんてポイッと捨てちゃっていいからさ。 ロビフラワンちゃん、俺を椅子代わりに使ってv カムバッークvv」
 ゾロギラーは、ロビフラワンに向けた黄緑色のエロ怪獣サンジロプスのハートに変化した目が、自分の方を向いた途端 眉間に皺が寄り凶悪な目つきに変わったのを視界の端に捉え フンっと鼻息を荒くすると 負けないくらいふてぶてしい視線を投げて寄越し 
「好きで乗っかった訳じゃねぇよ! エロ怪獣!!」 
 と黄緑の身体から飛びのいた。

「ケッ変態怪獣が。」
 横を向き吐き捨てるようにつぶやく怪人の言葉を聞き逃す筈もなく、怪人と怪獣の争いは今日もまた始まった。
 こうなると先ほどまでのロビフラワンへのメロメロぶりはどこにいってしまうのか…
 怪獣は口から激しく紫煙を吐き出し、怪人はその切れ味の良さそうな指をこれみよがしに構えた。
「あら。またなの?飽きないわね貴方達…。」
 日に数度繰り広げられる見慣れた諍いに ロビフラワンの笑みを含んだたため息が落ちたが、それに気づく二人ではない。




 いつからだ?
 あのバカな怪獣のやることなすこと全てが気になるようになったのは。
 一通り互い足や手を出しあって、やがて飽きたらしいエロ怪獣は花怪人の方に歩いていった。
 ロビフラワンを ハートの目で見つめ、聞いているこっちの喉元が痒くなりそうなくだらない讃美をその口から吐き出し続けるサンジロプスを おにぎり怪人ゾロギラーはちらりと横目で見やり考えた。 
『馬鹿じゃねぇのか・・。』
 そんな言葉をもう何回 声に出さず呟いたことか。
 いつだってそうだ。 このエロ怪獣は女と見れば褒めちぎり、ほんの少しでもその女の興味が自分に向けられることを喜びとしている。 女なら何でもいいというのか? 第一こんな・・・お花怪人の何処がいいというのだ?
 ゾロギラーは同じウソダバ団の仲間でもあるもう一人の女怪人にたいそう失礼な視線を向けた。

 その小さな布っきれから溢れんばかりの豊かな胸か?
 知性の垣間見える黒い瞳か?
 形のいい赤い唇か?
 艶のある黒髪か?
 小ぶりなヒップと引き締まった腰か?
 ひらひらしたドレスを着ているからか?
 にょきにょきと生えた手のしなやかさか?

 そんなんなら・・・・俺には

 隆起した筋肉の胸板は鍛えに鍛えた証だ。
 そんな気はないのに子供は泣き出し、大人でさえも裸足で逃げ出していく事もある己の目つきの良さ。
 大好きなおにぎりをぱくりと食べられる大きな口。
 白い飯粒にトッピングを施したかのような海苔の艶のある頭。
 相撲取りのような どっしりと安定感のあり過ぎる腰。
 垂れ下がった揺れる飾りも愛らしい マワシ。
 切れ味鋭い刃物のような指は たまに不便だけれど 俺の自慢だ。

 ・・・・・・・。
 ほら、俺だって 花怪人にたいして引けをとらねぇじゃねぇか。
 その辺の女共にだって負けやしねぇ。


 ・・・・・・・・・・・・何比べてるんだ俺・・・?
 あぁ、馬鹿らしい事考えちまった。 時間の無駄だ、時間の無駄。 あンのエロ怪獣が、どんな奴にどんなこと言おうと 俺には関係ねぇじゃねぇか。 ンな暇あるなら寝てた方がましだ。
 あのエロ怪獣の取り柄といえば、うまいおにぎりを握れるくれェなもんで。 ま、俺がぱくりと食べた時に垣間見える にぱっと笑う顔はいいかもしんねぇが、一日中女やら料理の事ばっか考えてるような、あんな奴どうでもいいじゃぁねぇか。
 おにぎり怪人は、崩壊していくウソダバ団の基地を気にも留めず ふいっと二人に背を向けると 日当たりのいい木の下に腰を下ろし目を閉じた。

「おい、お前ら。 そんなところで油売ってないでチョッパーマンやっつけて来い! で・・・・でないと、このDr.ウソダバダさまが容赦しない!!・・・・しないからな・・。」
「うるせぇ。」
 片方だけ目を開けて ウソダバダをみると、またすぐに目を閉じた怪人は、ものの数秒で眠りに落ちたのか すぐに規則正しい寝息を立て始めた。
「あら。 Drも飛ばされてたのね、気付かなかったわ?」
「気づけよ、オイ;」
「俺は今ロビフラワンちゃんと、楽しく優雅にかつグレイトに語らってるんだよ このクソ野郎。 邪魔すんじゃねぇ!」
「な・・・なんだと!サンジロプス・・ご主人様の め・・・命令が聞けないの・・か・・。」
「Dr.声がだんだん小さくなってるわよ。 よかったわね、あのまま基地にいたら今頃瓦礫の下だったわよ Dr.」
 うふふふ。 と微笑み立ち去るロビフラワンの後を 尻尾をふりふり振りながら彼女の周りを回るように追いかけて黄緑の怪獣もウソダバダに背を向け走り去った。







 そんなチームワークもなにも有ったもんじゃない三悪人&Dr.ウソダバダなのだが、今日はいつもとどこか勝手が違うようだ。


「おい、チョッパーマン!お前これ食べられっか?」
 意外にも職人並みの料理の腕を持つエロ怪獣 サンジロプスは、敵である筈のヒーローに フライパンの中身を傾け見せていた。
「?! お・・・俺 こんなすごい料理食べたことないぞ! 俺も、食べていいのかサンジロプス?」
 覗き込んだチョッパーマンは、今にもキューンスパークを振りまきそうなほどに 目を輝かせた。 それを見た怪獣もまた 普段は斜に構えているその目が優しく表情を変えた。 とても悪の組織の怪獣には見えないほどだ。 
「おう、勿論だ。 すっげークソうめぇから楽しみにしとけ。」
 にこりと笑った怪獣に正義の味方も期待に満ちた満面の笑みを浮かべる。
「うん! 楽しみだなぁ。 ナミフィアは料理は有料だとか言って、いっつも葉っぱとかをそのまま・・・・・・イデッ!あぁぁぁぁあ; ナミフィア。」
「チョッパーマン? 何の話をしてるのかしら?」
「あぁンv ナミフィアさぁん。 貴女のような素敵な方をお招きできて嬉しいです。何なりとこのサンジロプスに申し付けくださぃ〜。」
「お・・おで・・・・ちょっとあっち行って来る。」
 腕を組み 上から見下ろすナミフィアの物を言わさぬ視線に じりじりと後ずさりした正義の味方は、ガーデンのテーブルの準備をしている怪人たちの方へと走っていった。 それとともにさっきまでの和やかな雰囲気もどこかへ行ってしまった。 その代わり目をハートに変えた エロ怪獣がそこに出現する。
「怪獣のあんたが料理なんて ウソダバ団も何やってるんだか。」
 溜息を一つ。 これ見よがしに吐いたミニスカートの女のすらりと伸びた足に びろーんと鼻の下を延ばした怪獣はそれでもフライパンを落とすことなく調理を続けた。
「ここの食事は俺が全部賄ってるんですよレディ。 今日の親睦会も貴女の為に腕によりをかけますからv あぁ、なんて素敵なレディなんだ、 食事の後は僕とご一緒し・・・vv」
「それは遠慮しとくわ。 今日はよろしく、期待してるから。 」
 あまりにもあっさりと背を向けたナミフィアに かける言葉も見つからないままサンジロプスはがっくりと項垂れた。



 テーブル一杯に置かれた食器の上に 色とりどりの美味しそうな料理が並んでいる。 今日は、ウソダバ団とチョッパーマン達の親睦を兼ねた食事会なのである。
 悪の道をつき進んでいた筈の組織は、チョッパーマン本人を基地へ招き、結果基地が崩壊したのを受けて、悪の組織を廃業した。 今は、その壊れた基地の敷地に掘っ立て小屋を立て チョッパーマンの下請けと言うか、手伝いをしていたりするのだ。 手伝いといっても実は人のよいウソダバダは どうにもナミフィアにいいように扱われているようなのだが・・。

「肉 うんっめぇ〜〜〜〜ッ!!」
 ナミフィアの持つ指輪と交換に連れ戻されたルフィボンバーは、ウソダバダの手によって他の怪人達とあまり変わらないサイズへと変身を遂げていた。 
「ルフィボンバー、あんた食べすぎよ! それでなくともあんたを取り戻すのにあたしの指輪売ってお金作ってんだからね。 あんたあたしにその分ちゃんと全部支払いなさいよ!」
「はーーーーーーーい。」
 ナミフィアの手放したその指輪は、元々が巨大ロボを売り飛ばしたお金で買ったものなのだが。 それとこれとは別な話らしい。 元巨大ロボは20年ローンでの支払いを約束させられていた。
 それでもまるでずっと前からの知り合いのように 敵同士だった彼らは笑いあい、語り合っている。 Dr.ウソダバダは、自分のホラ話に目を輝かせて聞き入るチョッパーマンとルフィボンバー相手に 身振り手振りを加えて嬉々として語り続け。 ナミフィアとロビフラワンは、最初こそすれ詮索するようだったが、今では互いに興味のあるものについて熱く話をしている。 その後ろでは、黄緑の怪獣が二人の間に入ろうとしているのだが 入る隙がみつからないようだ。
 そんな賑やかなテーブルの端で、一人椅子に背を預け大口を開けて眠るおにぎり怪人がいた。 時折聞こえるいびきに 手持ち無沙汰な怪獣が振り向いたのは偶然だったのか。




 サンジロプスは、空に顔を晒し口の端から涎をたらして眠り続けるゾロキラーの側に立ち、空いた食器を片付けながらその顔を盗み見た。
 寝ているにも関わらず、眉間の皺は刻まれたままで。 それでも幾分普段の険がとれた顔をして眠っている。 悪の怪人から、正義のヒーローの仲間となった最近では、道行く子供たちに笑顔を振りまいているつもりらしいが、無理に作ったその笑顔が余計に 子供たちの恐怖心に火をつけているのを この怪人は気が付いているのだろうか? その所為か逆に眉間の皺が以前より一本増えているのだが、眠っている今はその増えた分の皺が以前のそれに戻っている。 そんな様子にサンジロプスはフッと口元を緩めると、また食器を片付け始める。 そうしながらふと視線の端に入った数字に目を大きく見開いた。


「おい Dr.ウソダバダ。 あの数字はなんなんだ?」
「ウソダバダ様と言えと言っておろうが、いいかげんにそう呼びたまえ、サンジロプス。」
 尻尾を右へ左へと揺らした怪獣は、慌てたように近づいておもむろに襟首を掴むと ウソダバダに詰め寄った。
「ほら、あのおにぎり野郎の胸にある数字だよ! 何なんだ? 俺達を生み出したのはてめぇだろ?ウソダバダ。」