Aroma







 港に近い海岸線に停泊している羊の船.。
その船上では 、とても賞金首が乗っているとは思えないほど 賑やかに宴が催されていた。


 宴の主役といえば、その輪の中から少しはずれた手摺りに背を預けて腰を下ろし、
真顔でいれば端正ともいえる顔の口端を少し持ち上げ 善良な一般人から見れば獲物を前にしたハンターのような笑みで 狂乱とも呼べる宴を離れた所から 満足げに見つめていた。




 騒ぎの元である甲板の中心では、主役がそこに居ない事は全く気にもとめずに、
踊り騒ぎまくり 食べまくるルフィ。 そして時折主役の方に視線を向けるウソップとチョッパー。
 その横でナミが 「美容の敵だわ。 でも止まんない」 と嘆きながら、
大量のアルコールと美味しい食事を笑顔で腹に収め。
 黒髪の考古学者は 大人びた微笑を浮かべながら、そんな彼らの様子を見ていた。
 麦藁のクルーはこの祝いの日を笑って過ごしていた。

 上機嫌のクルー達は  宴の目的も主役も関係なく騒ぎ続け、
やがて年少組は満腹になり騒ぎ疲れて甲板の上でいびきをたてはじめた。
 先程酒を注ぎに来たナミは、剣士の頬に軽くキスを残し
「おめでとう。おやすみなさい。借金の金利ちょっと下げてあげるわ。」
と 笑顔でドアに消えた。
 剣士と同じように騒ぎから一歩離れて宴を楽しんでいたらしいロビンも ナミの後に続くように剣士に近付き 黙って両手で剣士の顔を包み込むと ナミとは反対の頬に唇を寄せて 
「うふふ。ありがとう剣士さん。」 
とほんの少し触れて離れていった。
(高い金利を今更下げても たいして変わらないだろうに・・・。)
(何が・・・ ありがとう なんだ? 相変わらずよくわからねぇ女だ。) 今日の主役である剣士のゾロは 首を捻りつつ柔らかい唇の触れた場所を手の甲で拭い 残りの酒をぐいっと飲み干した。
 近付いた女共のふんわりとした残り香が 通り抜けた風ときついアルコールの匂いで掻き消えていく。

 剣士は海に向かって座りなおし 腹巻に手を突っ込みごぞごそと探ると 紙の箱を取り出した。
 それは宴の間中 座る時間無く働き続けたコックから
「おらよ。てめぇにプレゼントだ。」
 暇つぶしに吸ってろと、投げ渡されたコック愛用のタバコの箱。 それは、まだ封も開いていない。
 剣士は、箱を指で撫でてから封を開け、底を指で叩いて浮き上がった一本を口で咥え 近くにあったランタンで タバコに火を点けると 煙を肺に吸い込んだ。 
 ・・・コックの匂いが広がった。
 肺の中も自分の周りの空気も、一瞬でコックの匂いで満たされる。 
 例え近くにいなくても 目を瞑ればそれだけで コックが隣にいるような気になりさえする。

 今日の主役は剣士だと言うのに 主役そっちのけで 満腹にならない船長や女子共のリクエストに答えていたコックが 隣に来るのは
「食べそびれんじゃねぇぞ。」
 と 取り分けた皿と酒を持ってくるその時くらいのものだった。 それでも、剣士好みの料理が運ばれてくる事や 楽しそうに調理や 給仕をする姿を視界に入れているのは 剣士にとってそれはそれで幸せな休息の時間だったのだが。 
(やっぱ物足んねぇ。 あの黄色いのが足んねぇ・・・。)
 と思っていたのだ。 
 剣士は 煙を風に乗せて吐き出すと 今日傍にいなかったコックの匂いを 一本分楽しんで 吸殻を海に投げた。 涼しくなった風がそんな匂いさえ奪っていく。
 再び手摺に背を向けて寄りかかる。 ふと頬杖をついた指の先にタバコの匂いが残っている事に気付き 剣士はそんなものにも 反応する自分に苦笑して頬に手を当てた。 




 ・・・・そんな様子をコックは見ていたらしい。
「ずりぃ!てめぇ羨ましすぎるぞ・・・いいなぁ。 ロビンちゃんも ナミさんも クソマリモじゃなくて俺にキスしてくれればいいのに〜。」
「別に嬉かねぇ。」
「そんな事言っちゃってよ〜。 素敵なレディにキス貰って本当は嬉しいだろ? ・・・・・あぁ、神様。 どうしてこんな朴念仁に 素敵なレディのキスなんか くれてやったんですか? コイツはごくつぶしで 根腐れ毬藻で? ・・・あ、寝腐れだ・・ あ〜、ん〜? ・・ん?? とにかく毬藻で。 これ以上も無いような凶暴な奴で、目だけで人殺せちまうような奴なのに ・・鈍感で・・・生意気な事に 6000万ベリーの賞金首なんですよー!」

 呂律の回らないコックが キッチン前の階段を降りながら ゾロのほうに近付いてきた。
 散らかっていた甲板が いつの間にやら粗方片付いているのは、どうやらコックが先程からフラフラと往復していた成果らしい。
「あー。 ごちゃごちゃとうるせぇなぁ、クソコック。 こっちこい。」
「・・・こんなマリモなんかにキスなんて・・。 神聖なレディの唇が荒れちまったら大変じゃねぇか。」
 ブツブツ言いながらもコックはこちらに近付いてくる。 足元が怪しくなっているのは 宴でかなりの酒を飲んでいたからだろう。
 すぐ傍でふらついた足が止まった。 胡坐をかいて座った俺のすぐ横にコックは突っ立ったままだ。
「俺はばい菌かよ?」
 口端で笑いながら、すぐ横に有るコックの手を下に引くと 抵抗無くコックは隣に腰を下ろした。
「・・ばい菌だ。 明日ナミさんやロビンちゃんの唇が腫れてたらどうしてくれんだ、このクソマリモ。 2人の髪が緑になってたら ・・・てめぇをオロス。」
 結構酔ってるらしいコックはしきりと 女共の事ばかり繰り返す。 ホントこのコックは女好きで、女共が俺にキスしたのが気に入らないらしい。 
(キスつったって、ほっぺたにチョン、だぜ? 大体俺からした訳じゃないのによ。 ありゃ不可抗力だってんだ。 エロボケ酔っぱのクソコックめ。 俺の祝いだってのに女の事ばかり言いやがって。 こンのボケ。)
 なんだか面白くなくて俺は新しい瓶を開けて グラスを使わずに口を付け酒を呷った。 
 無意識に目を瞑った俺の頬を ふんわりと温かいものが覆う。 酒を下ろして目を開けるとコックの両手が俺の顔を包んでいた。
 ふんわりと包むようだったコックの手はやがて 女共の触れた箇所を指で優しく撫でると小さく溜め息を付いた。
 顔のすぐ傍で吐かれたその息は 少し酒臭いが、俺自身もコックの酒量を越えているだろうからお互い様だ。 何より 今日は祝いだから、際限なく飲んでいいぞ と上機嫌で言ってきたのはコイツだからな。 

 食料が心許なくなってきた船は偶然にも昨晩島に着き。 補充した食料と酒を前にしてコックはやけに上機嫌だった。 そんなコックをみかん畑から見かけて 俺も嬉しくなったんだよなぁ。 食料の心配をするコックは、怪我してる訳じゃねぇけど どっか痛そうな顔してっから・・。
 もちろんコックはそんな事言わねぇし、そんなのは隠してっけど ふとした瞬間に顔を出すんだ。 ・・見てりゃ解るからな。 他の奴らが解んなくても、俺は解る。 ・・・・・・以前ナミが同じ様な事いってて あぁ、俺以外にも解ってる奴がいるって なんか嬉しいようなムカつくような不思議な感覚がした事もあったな。 
 ・・・とにかく・・上機嫌だったんだ。 宴の始まりの時は。
 宴会の最中も コックは皿を運びながら笑ってた。 忙しそうに動いてるから一緒に酒飲めなかったのは残念だが、俺は、そんな楽しそうなコックを肴に酒を飲んでたんだよな・・・・。

 それが今はどうだ? くだらねぇ事で溜め息付いて・・。 そんなにあの女共がいいか? あんな掠めるようなキスともいえねぇもんがお前は欲しいのか? いっつもいっつも女の事ばっかり言いやがって・・。 このバカが・・。
(キスってのはこんなんだろ。)
 腹立ち紛れに 自分の頬に当てられたコックの手を掴むと すぐ傍にあるその顔に 覆いかぶさるように口付けた。 閉じた唇をこじ開け咥内をかき乱す。 幾分乱暴だったがすぐに反応を返す舌を存分に堪能してからコックの唇を解放した。 
 酔いの所為かとろんとした目をしたコックが 目の前で動く。
 気付くとコックの腕が頭を抱き込んでいて、俺の視界はコックの青いシャツの胸元に埋もれていた。

 アルコールに混じった サンジの匂いともいえる仄かなタバコの匂いと 規則正しい鼓動。 それに包まれている間に 苛立った気持ちが少しづつ落ち着いてくるから不思議なもんだ。
 コックが女贔屓なのは今に始まったことじゃない。 レストランで感じた初対面の印象は女にだらしない男 というものだったじゃないか。 航海を続ける内に 決して女にだらしない訳じゃないというのはわかった・・。
 ただ、今日というこの日にまで それに拘るコックが鼻についたんだ。 ・・・コイツに関しちゃ修行が足んねぇな。 次第に冷静になっていく自分を コックの胸で小さく笑った。
「なぁに笑ってるんだクソ剣士?」
 くぐもって響く声が心地いいと思っていると コックが身体を離してさっきと同じように その両手を俺の顔に伸ばしてきた。 骨ばった大きな手が俺を包む。 
(また女共の事いいだすのか・・。) 
 呆れて顔を背けようとした俺の顔を がしりと押さえると、コックの顔が近付いてきた。 そして両頬にちゅっと音を立てて唇を寄せると、その後俺の唇を塞いできた。 


「今回は 大事なレディからの贈り物だから大目に見てやるが、俺以外の奴に簡単に触れさすんじゃねぇよ。 てめぇも・・・キスしてもらって嬉しそうにほっぺた撫でてやがるんじゃねぇよ・・・。」
 湿度のこもった吐息を吐くコックが、指で俺の頬を撫でながら拗ねたような小さな声で呟き 俯いた。
・・・・・・・・・・。
 思わず俯いたコックの顔を持ち上げこちらに向けた。 と、思わぬ抵抗があり、コックは顔を背けた。
「・・見るんじゃねぇよ、ボケ。  自分でもかなり恥ずかしい事言ってる自覚があんだからよ・・。」
「てめぇ、・・・。」
 触れているコックの顔の温度が上がる きっと彼は赤面しているのだろう。 普段素直な感情を口にしないコックの小さな声は 思いの外とても大きく俺の中で響きやがった。
(・・・・・そうか。 あれは・・。 ヤキモチを焼いていたのは・・・・・。)
 コックに手を伸ばす
(あぁ、やっぱり修行が足んねぇよ。  なんて解り難い奴だ。 勝手に変な誤解してやがるし・・ま、そんなトコも気に入ってるんだが・・。 誕生日位は 素直な言葉貰うのも悪くねぇかな。)
「汗くせぇよ、クソマリモ。」
 抱きこんだコックから苦情が上がったが それを無視して俺は誕生日が終わるまで そうしていた。







「なぁ、てめぇ何が欲しい? 買いに行く時間も無かったし、用意してねぇんだよ 明日・・・今日買い出しがあるからそんとき買って来らぁ。」
「いらねぇよ。」
「んな訳いくか」
 言い出して引っ込みがつかなくなるのは、こいつにはよくある事だ。
「じゃぁ、またタバコくれ。 昨日もらったモンが空になったらそん時にもう一箱。」
「・・・あ? そんなモンでいいのか?」
「あぁ、それが欲しい。」
 毎度毎度2人でしけこむ格納庫に今夜も流れ着いた。 マッチの小さな灯りにコックのきょとんとした顔が照らし出されすぐに消えた。 明暗の起こる小さな火が消えるのを待って 残像の中で普段より幼く見えるコックに俺は口付ける。
 その唇は少しタバコの味がした。








おめでとー!!ゾロ!  って今日はもう12日  UPするのはきっと13日だわ〜(滝汗)
でも 大好きだからね〜vv(サンちゃんの次に←オイ!?)