何処までも、・・・何処までも青い空。
水平線に消える空の その端までもが雲ひとつない青。
「アチ〜ィ。」
パタパタとシャツの裾から風を入れながらも 長袖のシャツを脱がない男が トレー片手に甲板を歩き回る。
おやつだと 女共にいそいそと給仕して歩くのは 海王類さえ一蹴りで沈めるほどの戦闘力を持つ海のコック。
その彼は やがて、女たちへの給仕が終わると 男達をキッチンへと召集する。
女にはパラソルの下までサービスしているのに 男達はここまで来やがれ、と不遜な態度を取る。
それでも その傲慢な態度の裏に 分け隔てない愛情が込められているのを 剣士は知っていた。
外より幾分温度の低いラウンジでは、船長が今日のおやつ、パンプディングを 頬を膨らませ飲み込む勢いで食べている。
昼食でさえ いつものようにうんざりするほど食べていたのに、彼の前にある 調理用ボールで作られた特大パンプディングは、残すところ後僅かだ。
その両隣に座るチョッパーもウソップも 顔を綻ばせながら普通サイズのそれにパクついている。
目の前の皿の向こうの光景を 視界に納めると 剣士は紅茶の入ったカップを置いて プディングをスプーンでつついてみる。
グラニュー糖を散らし、バーナーであぶって仕上げてあるそれの表面が スプーンに当たってほんの少しパキパキと鳴る音を聞いて思わず口元が引き上がる。
すくって口に含めば、ほんのりと林檎の香りがした。
剣士の眉がピクリと上がった。
あっさりとした甘味のそれは、いくらでも食べてしまえそうだ。
向かいの席の三人は満足したらしく席を立ってラウンジを出て行った、それを見送って
「今日は生クリームが無かったから 林檎ジュース使ってるんだぜ。」
そう言って、コックはタバコに火をつけると 剣士の居るのとは反対の方に煙を吐き出した。
コックの言葉に剣士からの反応は無い。
それでも気にする風も無くコックはラウンジのドアをあけると 手摺に身を乗り出して誰かと話し始めた。 話の内容からするとウソップあたりだろう。
暫くしてタバコの火を消したコックが ラウンジに戻ってきた。
「アチィなぁ、やっぱ外はアチィ。」
と言いながら コックはズボンから出ているシャツの腹の部分を摘んでパタパタと揺らす。
その度に シャツの裾からコックの腹が見え隠れする。
最後の一口をゴクリと味わいながら、コックの白い腹が、ひらひらと揺れるシャツから微かにのぞくのを剣士は見た。
暑いのならそれなりの服を着ればいいと剣士は思うのだが、コックはそれだと日差しが強すぎると言って大抵長袖のシャツを着ているのだ。
「おい、マリモヘッド。 食い終わったら、皿シンクに置いとけよ。 俺は洗濯入れてくる、てめぇも後で自分のは片付けろ!」
そう言ってコックは振り向きもせずに出て行った。
剣士は 黙って立ち上がるとシンクに食器を置いた。
最近剣士は思うことがある。
一見いい加減でえこひいきの激しいコックは、意外にも皆に平等だ。
もちろん女は別格としてのことだが・・・。
・・・そして、俺は。 ・・ と、考える。
時々覗き見えるコックの腹とか、誰にでも(特に女共)向けられるコックの笑顔だとかを 他の奴らに見せたくねぇ、とか
あのとろけるように甘くて美味い食べもんを食うときは、コックと2人だけでいたい。
なんて事を思っちまったりしてるんだよなぁ。 どうにもおかしくなっちまったみたいだと思う。
甲板に寝そべって 腕を枕代わりに頭の下に差し入れる。
視界に映るのは 風にたなびく麦藁の海賊旗と青い空。
雲ひとつ無い青空なのに 剣士の心はどこか晴れないままだった。