公園に面したレストランは、ランチはもちろん その後に出されるスイーツを目当てに客が来る事でも有名だ。
店の外に置かれたテーブルは 間近に公園の緑を楽しむ事が出来る特等席。
晴れた日には木陰と通る風の心地よさを求めて 美味しい食事とスイーツとドリンクを楽しむ客が席を満たす。
今日も、夏の名残の残る空の下、美味しさと涼を求めて人々が訪れる。
そんな落ち着いた賑わいとは違う厨房の熱気の中で コック服を着た少年がコームを片手に難しい顔をしている。
どうやら、ケーキの外側を飾るチョコクリームが綺麗な波型にならないようだ。
この店にスイーツの勉強に来ているという彼は 普段魚の形をした船のレストランのコックをやっている。
小さな頃から料理に携わり、途中紆余曲折はあったものの 殆どの料理についての基本を身につけた頃、
心の内で師と仰ぐオーナーから、彼の友人の店であるこのレストランに スイーツの勉強に行ってこいと連れ出された。
慣れない器具や初めての厨房に戸惑っていた少年も すぐに慣れると、その努力と持ち前のセンスで店のコック達に一目置かれるようになった。
だが、彼が最初から一人で手掛けるスイーツを 店の客に出すのは今日が初めてだ。
数日前に予約の入ったバースディケーキを任される事になって 少年は深夜の厨房で何度も試作を作った。
それを試食するのは 数日前に出会った少年。コックであるサンジよりは幾分大きな身体をしているが 歳を聞くと同い年だと言う。
彼は道場の師匠について 数日前この街に来たのだといっていた。
公園のベンチで 緑髪の少年が転寝している横を通ったサンジの耳に 大きな腹の虫の音が聞えたのが2人の出会いだ。
『道に迷って面倒くさくなったから寝た』と言う少年は、猛烈に腹を空かせていて・・・。
そんな少年に 試作品を食べさせたのが切欠で、その日から昨日までサンジは公園に来る少年にせっせと試作品であるケーキを運んだ。
少年は、あまり感想を言わないが、その顔の変化を サンジは見詰めた。
上がり気味の眉がピクリと上がり。
切れ長の目が軽く弓なりになる。
眉間の皺が消え。
口元が笑みを描く。
それだけで充分だと思った。少年の表情は雄弁に心情を表している。
「明日街へ帰る。」
昨日、唇をかみ締めているばかりの少年が別れを告げた。
サンジが持ってきたチョコケーキを ゆっくりと食べると
「こんな美味いの初めて食べた。今日のが一番美味しい!」
今まで見せた事のないような全開の笑みを向けられた。
少年のそんな顔を見て サンジは驚いた。彼はいつもむっつりとして、ほんの少し表情を変えるだけだったから。
だからサンジも自然と笑った、褒められた嬉しさと少年のそんな顔につられて。
笑いあった少年の顔が少し赤くなる。
「大人になって遇うことがあったら、又食わせてくれ。」
そう言ってベンチを立つと じゃぁな。 と、走り去り、振り向く事はなかった。
(きちんと笑えてるかな)
コックの少年は 自分がぎこちない笑みを浮かべている気がしてならなかった。
初めて担当する事になったケーキをテーブルまで運んでいるのだ。
緑に囲まれたテーブルには若い綺麗なお姉様がたが数名いて キラキラした目でこちらをみている。
代価を貰う初めてのケーキ。ドキドキと胸が高鳴っているのが 周りの人にまで聞えてしまいそうだ。
味は、見た目は、大丈夫だろうか? お気に召して頂けるだろうか。 店の評判を落としはしないだろうか。
もう会うこともないだろう少年の笑った顔を思い出し 背中を押されるように歩き出すと素敵なレディの前で止まる。
「お客様。・・誕生日おめでとうございます。こちらガトーショコラ ホールでございます。」
後部甲板で鍛錬をしている剣士の片眉がピクリと持ち上がる。
風に乗って流れてきた 匂いに思わず口元が緩くなる。
実は、強面のこの剣士 見かけによらず甘いものに目がないのだ。
剣士は重い串団子を脇に下ろすと 船縁に寄りかかり目を閉じた。
もうじき女共にケーキよりも甘い声を掛け、年少組をテーブルに呼んだ後、片手にトレーを掲げたコックが船尾にやってくる。
待ち構えていたと思われるのはしゃくだから こんな時はいつも寝た振りを決め込む。
「今日のおやつは ガトーショコラだ。てめぇ好きだろ。」
腹に脚が落ちてくるのと一緒に落ちてきた声に剣士は瞼を開けた。
end