海賊として船に乗ってすぐの頃 その大半を砂漠が占める暑い国に行った事があるんだ。


───その国、アラバスタはまさに動乱の渦中で。
 その国と人々を守ろうと奮起する王女と行動を共にしていた自分は 当然よそ見などしている暇はなく……余計モノなど目に入らなかった。


 だから、そんなものは初めてみたんだ。

…何より水の渇枯したあの国では見れない光景だったのかもしれないけど…。


 あの凛とした王女を思い出すような暑いこの島でみた。








   背の高いその花は。



 しゃんと茎を真っ直ぐに伸ばし 見るからに重そうな花の付け根、その部分だけを重たげにわずかに曲げて皆太陽の方を向いていた。








───群生とでもいうのか。
 船の中でも背の高い考古学者の身の丈までもが隠れてしまいそうなほどの高さの 大輪の黄色い花を咲かす植物が、見渡す限り続いていてチョッパーは圧倒されていた。

 一年の長い期間を白い雪で被われた場所で暮らしてきた自分があの島を出て、世界は白や地味な色ばかりではないと思い知った筈だけれど。


 しっかりとした茎と花を育む大きな葉の緑と大輪の黄色の群生は 色鮮やかに目に映る。








 麦藁の海賊船が、一時の休息のために順調に進んでいた帆を降ろしたのは 夏島だった。

 ほそぼそと観光を糧と営む島は、お世辞にも発展しているとはいいがたいが、どこか懐かしい郊外を思わせ、賞金首を三人も抱える海賊団には打ってつけの島だといえた。
 そんな島でのんびりする事になったのは 当然といえば当然の成り行きだったのだろう。


「うわぁ!」
「すっげぇ!」
「あら。」
「すてき。」
「すげぇな…。」
「……。」
「こりゃ見事だ。」
 圧倒されるそれに感嘆詞しかでない。

 窓を開け放した宿のすぐ裏は 一面の黄色だった。
 部屋に通されて目に飛び込んできたのは、緑の山並みを背景に咲く








───沢山のひまわり。








 それが植物で作られた巨大迷路だと聞いて 放っておくようなルフィではない。
 仲間達を伴いスタートの看板の前に立ったのは、三十分程前の事だった。
 各々が思い思いの方向へ進み ルフィやウソップと一緒に走り出した筈のチョッパーは、気付けば一人になっていた。


『みんなどこ行ったんだ?』
 植物の間を通る細い道は、両側に緑がそびえ大きな葉と共に 背の低い自分に迫ってくるように圧倒する。
 見上げて目に入る空は、黄色い花に縁取られ広い筈が小さく見え。
 さっきまでわくわくとはしゃいでいたのに、今は心細ささえ感じるほどその気持ちは萎んでしまった。

 ここは静かで、風の通りが揺らす葉擦れの音しか今は聞こえない。
 クルーが皆この迷路に散っているはずなのに 今はその気配さえ感じられず、
 ……まるでここにいるのは自一人だけのような孤独感。
 暑い場所に立っているのに 雪の中ひとりぼっちだった頃の孤独感が突如チョッパーに押し寄せてくる。
「どこまで続いてるんだろぅ?」
 自慢の鼻もグシグシと溢れる鼻水と 花の匂いで今は役になど立たず、人一人分の狭い通路では花を倒してしまいそうで 大きくなることも出来ずチョッパーは途方に暮れていた。


「おぃ、誰か…誰もいないのか?」
 来た方を振り返っても、前方を見ても誰の姿もない。
 心細さをぶるぶると頭を振って追い払い
「ルフィ。ウソップ。」
「……ナミ。」
「サンジ。」
「ロ…ビン。」
「ゾロ…。」
 迷路の中にいる筈の仲間の名を口の中で呼んでみた。
 たったそれだけで力が湧いたきがした。
 チョッパーが止まっていた足に力を込めて歩き出すと、緑の迫る細い土の上には小さなヒズメの跡が転々とついた。

 新たな緑の壁が現れる度に 左右に首を振って誰か居ないか確認するが、未だ誰の声も聞こえない。
 壁を十数回曲がった頃
 がさり、と大きく葉が揺れた……。
 がさがさと揺れるのは植物の壁。
 そこに通路はない。
『な……なんだ!?とにかく隠れなくちゃ!』
 向きを変えて小さな足を踏みだそうとした時、
「まて、チョッパー。」
 聞き慣れた低い声に名前を呼ばれた。


「 ? ゾロ!…………………………………………そこ道じゃないぞ!?!」






「どこまで続いてんのかな?」
 数十分前、同じような台詞を言った時とはなんて違いなんだろう!
 チョッパーはゾロの肩の上にちょこんと座り 目前の緑の頭をみて頬を緩めた。


───植物の壁から出てきたゾロは首の後ろをボリボリ掻くと
「よう、チョッパー。」
と照れたように名前を呼んでくれた───






「ゾロも迷子か?」

 歩くと揺れる肩車から見ると同じ花畑なのに先程までとは全く違ってみえる。
 花の高さにもよるが時々他の通路まで見えたりする。
 チョッパーを閉じ込めてしまいそうな あの壁の圧迫感はもう感じられない。
 視線をゾロの頭に戻すとチョッパーはくすくすと笑った。


「迷子じゃねぇ。」
「変なとこから出てきたじゃないか。」
「……う。……迷路ってのは迷うように作ってあるもんだ。」
「でも、あれは通路じゃなかったぞ。」

・・・・・
・・・・・
・・・・・ゾロが黙ってしまった。俺まずい事言ったかな。 でもホントの事だぞ。
「………………………チョッパー。この花の名前知ってるか?」
 チョッパーから見えるゾロの頭が通路脇の大輪を見上げて動く。
 黙って何か考えてる風だったゾロが、声を掛けてくれたのが嬉しくてすぐに答えた。
「ひまわり。だろ?!」
「そうか、知ってるか。」
「実物を見るのは初めてだけど、図鑑で見たことあるぞ。」
 ドクターの所で視た医学書を思い出す。 ドクターの家には沢山の本があった。 その沢山の中でも 俺は病を治したり身体を癒したりする、薬や植物の本が好きで良く見ていたっけ。
「花の種が漢方薬になるんだ。 」
 本はカラーじゃなかったけれど、一つにしか見えないのに何百という花が集まっているというその形や説明書きに 花を想像していたんだ。 ここまでデカイとは思わなかったけど・・。

「そうなのか。 チョッパーは物知りだな。」
「え!? ほ、褒められても嬉しくなんかないぞ///・・・このやろう!」
 嬉しくて照れくさかったけれど、歩くのに合わせて揺れる筋肉質な肩の上では隠れるところもない。
 代わりにゾロに乗せた足を軽くバタバタと揺らしてやった。 
 

「あはは。」 と笑うゾロの頭はひまわりの壁と同じ色だ。
「ひまわりってゾロとサンジみたいだ。」
「…は?」
 思ったままを口に出したら、ゾロが変な声を出して立ち止まった。
 あれ?!俺また何か変な事言ったかな?
 とにかく何か言わないと
「あ、ほら…緑の葉っぱと、花が黄色いから・・・。」
「・・・・・あぁ。」
「葉っぱも 大きいし、茎も芯が入ってるみたいに太いし。」
「・・・・。」
「花も葉っぱに負けない位おっきくて・・・綺麗な黄色で。」
「・・。」
「みんなお日様の方を向いて、しゃんと立ってるんだ。」
「・・・・。」
 な・・・泣きたくなってきた。 ゾロ、 何で何も言ってくれねぇんだ?!
「一本芯が通って、太陽がよく似合って黄色と緑でサンジとゾロみたいだろ!?」
 ゾロが肩に当たる俺の足を大きな手で押さえると、背中が大きく揺れてゾロが振り向いた。
「俺はともかく…そう言われりゃ、アホな頭と同じ色といい コックみたいな花だな。」
 バランスを崩しそうになって 俺は慌ててゾロの頭に手を置いた。
 すぐ目前に見えるゾロの横顔は俺をみてニヤリと笑ってまた前を向いた。
 止まっていたゾロの足がまた動き出す。


「俺には太陽は似合わねぇ」
 規則的に揺れる背中から声が響く。
「ゾロ?」
「俺の夢には…人の命が切り離せねぇからな…お天道様の下は眩しすぎる。」
そう言って花に目をやったらしくゾロの頭が動いた。
「そんな事ない!」
 ポカリと目の前の緑を叩いていた。
『そんな寂しいこと言うな。』
 ゾロほど孤高な意識を持ち高みを目指す剣士をチョッパーは知らない。
 命をもてあそぶような無駄な争いはしない。
 金品や売名目的でない剣を極めようとする相手には敬意をはらって挑み 命を軽視しない。
 なのに時に利にもならない他人のために自分の命をはる事も厭わない。
───アラバスタの時のように。
 最も麦藁のクルーはみんなそうだ。

 ドラムでも国を救ってくれた。
 その一味に自分がいるのが誇らしいんだ。
 大好きな仲間なんだ。

 だから、そんな事を言うゾロは間違ってると思う。

 だって
 さっき花の間から現れたゾロは太陽の日を背負って眩しいほど格好よかった。 ……出てきたのは道じゃなかったけど。
 太陽がよく似合ってた。 ……いつもみたいに迷子だったけど。

「俺、ひまわりもゾロも大好きだぞ!」
 何て言っていいか判らないから大好きだっていった。
 ゾロはちょっとだけ俯いて
「…おぅ。」
 また前を向いた。

「チョッパー、何か見えねぇか!?」
「え〜と、やぐらみたいのがあるぞ! 宿からみた奴だ。 でも誰もいないぞ。」
「あぁ、二つ有ったな・・・迷路の真ん中くらいに有った方か。」
 これだけさまよってまだ半分……二人は互いに気付かれないようにちょっと溜め息をついた。


「ねぇゾロ。ひまわりとサンジって似てるよね?」
 あれから暫く歩いてもまだ他の仲間の姿は見えない。
「? 頭が黄色なとこか!?」
「……それもあるけど…。」
「?」
 ゾロは無言で。 チョッパーの話を聞いているようだ。
「ひまわりの茎。 スッと真っ直ぐに伸びてて、そのくせがくの付け根だけちょっと猫背みたいに曲がってて……サンジみたいだろ!?」
「そう言われりゃそうかな。」
「いつでもみんなの事見てくれて……沢山の種を残すんだ。 きっと幸せの種だぞ!」
「…………子種じゃねぇのか。」
「///ばっ!! ゾロ。 サンジは女好きだけど節操なしじゃないぞ。」
「あぁ、そうだな。」
 何だよ。 そんなのゾロが一番よく知ってる筈じゃないか。 ……二人はツガイなんだから。
───でもそれは言わない。ナミに言っちゃだめよって言われてるからな。
「とれる種は肉体疲労に効くんだ。 ……サンジの飯食べると元気出るだろ!」
「そうかもな」
「”かも”。 じゃなくて、 ”そう” だろ。 何より、美味いからみんな笑顔になるしな!」
「……そうだな。」
 ゾロの手が俺の足をぱふぱふと叩く。 大きくってごつい優しい手だ。







「チョッパー!!ゾロー!おせーぞ!!!」
 遠くからルフィの陽気な声がする。
 見渡すとひまわりの間から見えるやぐらの上に人影が。

 ゴールはそう遠くない。
 太陽を背にした複数見える人影は 麦藁海賊団の特徴で。
 麦藁帽子や、長い鼻、帽子をかぶった長身 日を浴びてみかん色に輝く髪のシルエット。 その中でも帽子を被っていない長身の男の髪は光を反射して透けて見えるようだ。
『ひまわりより柔らかい黄色だ』 
 遠くに見えるサンジの髪にそう思っていると
「チョッパー。」
 ゾロの背中から静かな声がした。
「ん?」
「コックの背骨・・・・気にしてやってくれ。・・・前にやってるだろ。 あの馬鹿何も考えないからよ・・。」
 『ゾロだっていつも無謀な事ばっかりじゃないか』
 それを飲み込んで、
「わかった、その代わりゾロもちゃんと診せてくれよ、な?!」
 そう言って上から覗き込んだら 眉間に皺を寄せたゾロの顔が見えた。




 仲間が待つやぐらまでもう壁はなく真っ直ぐな道だ。
 俺はゾロの肩から降りて緑の壁の間を歩く。


───仲間の待つそこへ。
 気付けば走り出していた。
 両脇に優しく揺れる植物の壁 後ろに大好きなゾロ、前に大好きな仲間達。



『ドクター? 俺、今一人じゃないよ!?』 






end






CK様から素敵なイラストを頂きました!! 
何とおまけもあるんですv おまけ

10,000HITリク、「ゾロとチョッパーの、ほのぼのした親子(?)会話」
く・・・・クリアでしょうか?
とにかく、肩車させて会話させたかったんです(汗)
CK様、こんな話でよろしければ進呈させてください。もちろん返却OKですので(笑)
楽しいほのぼのリクありがとうございましたvV & 仕上がりが遅くなり 申し訳ありませんでした。ペコリ。
   2005.12.23