青い空に一羽のかもめが飛んでいる。
島を越え、海峡を渡り、時に海原をかすめ 肩(?)からカバンを下げたかもめが飛んでいく。
「おぉ〜い!!」
羊の頭から空を見上げていた船長が、かもめが甲板に落としていったモノを拾い上げ キッチンの航海士の元に走り出した。
「なぁなぁ。ナミ。こんなの降って来たぞ!!」
「あぁ、今年ももうそんな時期なのね。」
「なにがだ?」
「ウソップの誕生日よ。・・ウソップ〜!愛しのカヤお嬢様からお届けモノじゃない!?」
ダダダダダダダ・・。
甲板を抜け階段を登りウソップが頬を紅潮させ キッチンに飛び込んで来る。
「ななななな・・・ナミ。何言ってるんだ。カヤと俺は至って健全な友人でだなぁ・・。」
「はいはい。良かったわね。今年もちゃんと届いて。」
「お?おう。」
頬を赤らめたまま荷物を受け取ると 来た時の勢いをどこかに忘れたようにいそいそとドアを出て行った。
「なぁ、ナミ。あいつどこ行ったんだ。」
開いたドアを見ながら船長が首を捻る。
「甲板でしょ。暫く一人にしてあげなさいよ。サンジくん、ルフィにココアでも入れてあげてくれるかしら。」
「お任せください。クソゴムちょっと待ってろ。」
新聞から眼を離さずに言うナミの隣で ルフィが椅子をガタガタと揺すりサンジの背中を見詰めている。
湯気の出るカップを持ったサンジが振り向くと 黙って受け取りココアを口に含む。ナミの言いつけを守っているのか椅子を立つ様子は無い。
サンジは三つのカップと一つのコップをトレーに乗せ キッチンの扉を静かに閉めた。
パラソルの下で本を読むロビンにカップを一つ、倉庫前の甲板で鍛錬する剣士の隣のチョッパーにカップを一つ。
そのチョッパーに剣士の分のコップを預け、サンジは後部甲板に向かった。
「サンジはシロップ村って知ってるか?」
振り向きもせずウソップがサンジに問う。
「いや。・・タバコ吸ってもいいか?」
「普段聞きもしないで、スパスパ吸ってるくせによく言う。」
隣に並ぶサンジに苦笑しながらウソップが笑う。
「ほれ、これでもどうだ?」
カップを横から差し出すサンジに振り向いたウソップの顔は涙で濡れている。
サンジはそれに気付かない風に 手摺に両肘をついてじっと海を見ていた。
「あ、どうも。」
「おぉ、心して飲め。」二人黙って海だけを眺めていた。
二本目のタバコを吸い終わるとサンジは目の前に差し出された空のカップを受け取った。
もう隣のウソップからは グシグシと鼻をすする音は聞こえてこない。
「ご馳走様。美味かった。・・・・・サンキュ。」
そう言ったウソップの声に初めて振り向くと サンジはウソップの笑顔に出会う。
「ウソップ海賊団の仲間が手紙をくれたよ。懐かしいなぁ。ルフィにも見せてくる。」
おう。小さく応えたサンジに背を向けてウソップは手紙の束を大事そうに抱えて行った。
その束から見えているのは 女の子の書いたであろう几帳面な文字の書かれた封筒。
倉庫前まで戻るとカップを一つ回収する。
コップは?と、首を巡らすとゾロの上でチョッパーを見つけた。
鍛錬が終わったのだろう。壁に背を預けひざの上にチョッパーを乗せているゾロの手には先程のコップがある。
サンジは足音を立てないように近付くと チョッパーの顔を覗き込む。
「眠っちまったのか?」
「あぁ。」
ひざの上の船医はすやすやとお昼寝中だ。
「キッチンにゃ、まだ戻れねぇ。」
きっと今頃、キッチンではウソップの講釈が始まってるに違いない。
嬉しさと悲しさを混ぜこぜにしたウソップが喋っているに違いない。
シロップ村を知っている三人で 懐かしい話をしている事だろう。
サンジは呟くとゾロの隣に腰を下ろした。
「てめぇ ウソップ海賊団って知ってるか?」
あぁ、知ってる。 小さく笑う、とゾロはすげぇ海賊団だと言った。
「感謝しねぇとな。」
「何だ?コック」
「こうして一緒の船に乗っていられる事をだ。」
「そうか・・・。」
「そうだ。離れてたら、喧嘩する事も 仲直りする事も出来ねぇだろ。」
「あぁ、てめぇに触れる事も出来やしねぇ。泣いてても涙も拭ってやれやしねぇ。」
「だろ。」
「だな。」
ぼそぼそと船医を起こさないように会話する。
ゾロの手に持たれたコップは半分ほど残っていて汗をかいている。
「おい。」
コップの中身を口に含むと振り向いたサンジの首を引き寄せ、唇を合わせる。
ごくりと音がしてサンジの喉が動く。
「なっ!いきなり何すん・・。」
「黙ってろチョッパーが起きちまうじゃねぇか。・・・側にいないとこんな事も出来ないんだな。ウソップも辛ぇな。」
残りを一気に喉に流すとゾロは「ごっそさん。」とコップを差し出した。
サンジは奪い取るようにコップをゾロの手から奪い取ると立ち上がりパラソルに向かう。
その後姿の耳が真っ赤になっているのを見て、ゾロが口端を上げ声を立てずに笑う。
「コックさん 顔が真っ赤よ?」
カップを差し出すロビンがうふふと笑った。
キッチン前でタバコに火を点けると サンジはゆっくりと肺に吸い込んだ。
中からは、楽しそうな声が聞こえる。
サンジは手摺に凭れて明後日のパーティーのメニューを考える。
ウソップの好きなもの。
ウソップの嫌いなもの。
ケーキは甘いものを作ろう。
大好きな彼女に会えないウソップに 甘い時間を。
fin
![]()